第13話【真夜中の戦い②(midnight battle)】

 パンッ‼


「なんだ、今の銃声は‼」


 “ヤバイ! コーエンのヤツしくじったな……”


「じゅっ、銃声!?キャーーーーーッ‼」


 とりあえず一般人のように銃声に怯える振りをしてみたが、通用するとも思えない。


「テメー、CCS(サイボーグ犯罪対応班)だな‼」


 男が飛び上がり、ずっとポケット突っ込んでいた左手を出そうとする。


 “拳銃ならヤバイ!”


 咄嗟にその手を抑えるために腕を伸ばすと、オッサンが持っていたのは拳銃ではなくただのライターだった。


 逆にライターを持ったままの左手で、手首を逆手につかまれてしまう。


 オッサンの左手には介護士などが使う薄いゴム製のグローブが装着されていた。


 ライターとゴムグローブ……。


 私は慌てて掴まれた手を捻って外し、ゴムグローブの手の甲を叩いてオッサンが手に持っていたライターを払い落す。


 一瞬「カチッ」っと小さな音がしたので目を向けると、落ちていくライターが強烈な青白い稲妻の光を灯していた。


 “スタンガン‼”


 私がスタンガンに改造されたライターに気を取らている極僅かなスキに、オッサンは再び私の手を掴み直す。


 そして私が手を外そうと引っ張った瞬間に、手首を捻られて引いた方向に投げられた。


 “合気道‼”


 一杯食わされた。


 だけど私も同じ合気道をしている者として、受け身の取り方は心得ている。


 床に叩きつけられないように大きくジャンプして、空中で体を半捻りして逆手に持たれた手を準手に変えて逆に相手の手を捻るとオッサンも体を横に回転させて私の投げをかわした。


「なかなか、やるな」


 オッサンが、そういって私から離れると、入れ替わりに片足に改造パーツを装着した男の蹴りが襲ってきた。


 咄嗟に避けた拍子に背中でパーテーションを倒してしまいバタンと大きな音が響き、婿のドアから音を聞いた巨漢の男が飛び出してきた。


 4対1。


 そのうち1人は合気道の使い手で、2人は改造パーツ装着者。


 もう1人は分からないけれど、あとは奥の部屋に居る姿を見せない女ボス。


 そのうえ、私は潜入するために銃を持ってきていない。


 分が悪すぎるが、ここまで来た以上戦うしかない。


 実を言うと片足だけの改造パーツ装着者というのは意外にやり易い面もある。


 たしかに改造パーツでパワーアップした蹴りは脅威に値するが、軸足は生身のまま。


 しかも通常の医療機関で認定されたサイボーグパーツでさえ使いこなすには長いリハビリ期間が必要なのに、それが元々の筋力を超えているとなるとなおさら長い期間慣れるための訓練が必要になる。


 その点、誰が見てもビッコを引いて歩いているのが丸分かりなこの男は、装着手術を施されてまだ間が経っていないはず。


 強烈な蹴りを、腰を落としてかわしカンフーの足払い“前掃腿ぜんそうたい”で軸足を払うと、案の定ヤツは凄い回転を制御できずに床に叩きつけられた。


「おっ、おい。大丈夫か!?」


 オッサンが慌てて倒れた男の様子をみるが、既に男は気を失っていた。


「悪党にしては、ナカナカ仲間思いだな」


「悪党? こいつらを悪党に変えたのは、いったい誰なんだ!」


 何を言っているんだか、訳が分からない。


 この男を宝石店に盗みに行かせたのは自分たちのくせに。




 オッサンに気を取られている私の背後から、もう1人の男が襲いかかってくる。


 掛け声を掛けてくれたおかげで容易にそのパンチを避けることが出来、逆に私の出した掌底が相手のテンプルにヒットしてあっさりノックアウトした。


 倒れた男は生身の腕だったが、もう片方の手は物が引っ掛けやすいように半開きになったままの義手だった。




 “サイボーグパーツじゃないのか?”




「そいつは改造パーツ装着者じゃねえ。もっとも金が貯まったらゆくゆくは装着者になるだろうけどな」


 オッサンが私の心を読んだように答える。


「金が貯まったら!?」


 言っている意味が分からない。




 オッサンの言葉に惑わされている隙に、背後に迫っていた巨漢の男に腕を掴まれてしまった。


 “接近戦は不利‼”


 咄嗟に身を捩よじって手を解こうとしたが、相手のパワーが強すぎて離れることが出来なかった。


 この状態だと、今攻撃をかわした男かオッサンに、タコ殴りにされても避けることはできない。


 もちろん巨漢の男が、締め技を仕掛けてきたとしても。




 “万事窮す‼”




 丁度その時、ドアが蹴破られコーエンとルーの2人が部屋に入って来た。


「シーナ!」


 コーエンが拘束されている私を見て驚いて、声をかけて近付こうとする。


 オッサンが、その隙を見逃さずにコーエンに蹴りを入れる。


「危ない!」


 パーン!


 部屋の中に物凄い打撲音が響く。


 これはコーエンが見事にオッサンの蹴りに対して受け身を取った音。


 つまり蹴りのエネルギーを、受け身によって音エネルギーに変換したための轟音だ。


「このオッサンは合気道の達人だ、ルーと2人がかりで戦え!」


「了解!」


「オッサン!??」


 私の指示に驚いて振り向いたルーとオッサンの顔が何故かシンクロする。


 2人とは違い私の指示に素直に“了解”と返事を返してくれたコーエンに、胸がキュンと鳴る。


 “私も頑張らなければ!”

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る