第30話【ジョンFケネディー空港事件②(John F Kennedy airport incident)】

 既に多くの客は避難済みだけど、床には搬送された怪我人の残した幾つもの血痕がある。


 “今回の奴等は、そうとうヤバイ。これはテロなのか!?”


「CCSだ!」


 ターミナル内にあった椅子や机、それに自販機を倒してバリケードを築いて犯人を取り囲んでいる警官たちが私の声に振り替える。


「犯人は!?」


「中で、出発ゲートを塞いでいます」


 バリケードの中側には数人の犠牲者が横たわったまま取り残されている。


 その向こうにあるボーディング・ブリッジの手前側に、2メートルは軽く超えるサイボーグ化したヤツが立ちはだかり、その両脇にも怪しい男が2人居た。


「ヤツらの目的は、いったい何なんだ!?」


「分かりませんが、何かを待っているように思います」


「何かを!?」


「出発ゲートの向こうには既に旅客機が待機しています」


「直ぐに飛行機をターミナルの外に出せ!」


「直ぐには無理です」


「何故!?」


「パイロットやクルーたちが機から追い出されて、ブレーキが掛ったままの状態になっています」


「ブレーキの解除は出来ないのか?」


「機内からだとレバー1本の操作ですが、外からだと何せタイヤの本数が多い物ですから……」


「Shit‼(クソッ)」


 何がしたいのかはハッキリと分からないが、とりあえずヤツらを倒さなければ。




 とにかく3人が固まっていたのでは手の出しようがない。


「奴らを分断する。コーエン援護を頼む‼」


「えぇっ!? サンダース軍曹を待つんじゃねえのか?」


「5分後に到着すると言う情報はもらったが、待てと言う指示は受けていない!」


 現場に到着するなり勢いよく敵に向かって飛び出すシーナに警官たちだけでなくコーエンさえも度肝を抜かれるが、コーエンが援護射撃を始めると警官たちも慌てて銃を撃ち始めた。


 奴らの左側に、シーナが投げた発煙筒が白いガスで部分的に視界を遮り、シーナもその煙の中に消えた。


 “シーナは左から接近するつもりだ”


 コーンだけではなく、誰もが左側に注目する。


 もちろん奴らも。


 白いガスの中に黒い影が浮かぶ。


 左側に居た、脚をサイボーグ化したヤツが常人ではない素早さで反応し、その影に向かって走る。


 “ヤバイ! 奴に察知された‼”


 慌てたコーエンが、撃っていた拳銃を離しファゴットに手を掛ける。


 部分的にしても、常人を越えるパワーを持つサイボーグ。


 不意打ちをくらっては、いかにシーナが対サイボーグ柔術の名手と言えども勝ち目はない。


 ゴン!


 突然大きな音がロビーに響いた。


「シーナ‼」


 シーナを助けるためにバリケードから飛び出そうとしたときに、デカいヤツが持っていた機関銃が火を噴き銃弾の雨を浴びせられて慌てて体を引っ込めた。


 代わりに偵察用の超小型ドローン“ミメラ”を飛ばす。


 ミメラは昆虫サイズなので、銃で狙ったとしても弾が当たることは滅多に無い。


 先ずはシーナが居るはずのガスの中を見る。


 白いガスの中、床に倒れている人らしい黒い影が微かに見える。


 “シーナ‼”


 ミメラを黒い影に近付けて驚いた。


 映っていたのはシーナを追って煙の中に飛び込んで行った男。


 左側に居た脚をサイボーグ化したヤツだ。


 シーナが、やったのか?


 いや、違う。


 倒れている奴の傍には、案内表示用に天井から吊るされていた大型モニターが転がっているだけ。


 つまりシーナは発煙筒を焚いたときには既にこの場所から離れていて、敵がガスの中に入って来るのを見越して天井に吊り下げられている大型モニターをヤツの上に落としたのだ。


 両脚を違法の強化パーツに替えても、その他の部分は人間のまま……しかし、視界が利かない状態で、どうやってヤツの正確な位置が分かった?


 考えている暇もなく、右側からシーナの声がした。


「やっ!」


 右側に居た敵は、右腕だけを違法サイボーグ化している。


 上手くサイボーグ化していない相手の左腕を使って強力な右手での攻撃を無効化しているだけでなく、その右手の鋭いパンチを逆に利用して何度も相手のバランスを崩していた。


 何度目かの敵の攻撃。


 相手の左肩を蹴り飛ばしたあと、敵が右のストレートを放つ。


 パンチ自体は非常に鋭く、当たったら病院送り間違いないと言うか、命さえも危ういほどの剃刀パンチ。


 しかしその前にシーナに左肩を蹴りで押されているため、パンチを放つまでに少々時間が掛かったようだ。


 そのため容易に敵の右ストレートを避けることが出来、それだけではなくシーナは下から両手を突き上げるように敵の下あごにヒットさせると、そのまま前に突進する。


 敵の足が浮き、押されるまま後ろ方向に仰向けに仰け反ると、シーナはジャンプして両膝を相手の肩の高さまで持ち上げると体を挟むように背中に足を回した。


 バランスを崩して仰向けに倒れ込む敵の胸の上に座るような体勢。


 肩を膝で押し込まれ、更に背中に足を回されているので、どう受け身を取ろうとも床に後頭部を打ち付けてしまうことは避けられない。


 シーナはまるで相手の頭を床にスタンプするように、ノックアウトして見せた。

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