第31話【ジョンFケネディー空港事件③(John F Kennedy airport incident)】

 人間が人間である以上、どんなに頑張っても体の重心は腰の位置にある。


 そしてその重心を支えるのが足で、開いた左右の足のつま先から踵までを結んだ平面が支持基底面と言って体重を支えるために必要な面積となる。


 両脚を横に開くと、横方向のバランスは取りやすくなるが縦方向には弱くなる。


 足を前後に開いたときはその逆で、縦方向のバランスが取りやすくなる代わりに、今度は横方向のバランスが保ちにくくなる。


 シーナの攻撃は敵の突進する向きに若干の捻りを入れるように力を加えることで、脚の踏ん張る力を無効化し、且つ上半身だけを下から上に突き上げるように押すことで相手の重心を持ち上げて足を浮かすことに成功した。


 いくら違法にパワーアップした腕を持っていても、それ以外は生身の人間だから床に頭を激しく打ち付けてしまえば終了だ。


「コーエン、グラビティ―弾を撃ち込め!」


 2人を片付けたシーナが、残った大男をけん制しながら指示を出す。


 いくら対サイボーグ柔術の使い手だとはいえ、最後の奴は頭と胴体以外の殆どがサイボーグ化されている。


 言ってみればロボットに近い……いや、これが昔マンガで見た本当のサイボーグなのだろう。


 大男は脚も改造しているワリには動きが鈍い。


 ヤツの脚は素早さを求めているのではなく、体重を支えるためのモノなのだろう。


 シーナがチョッカイを出すが、下半身は殆ど動かないで長い手だけで応戦している。


 これでは対サイボーグ柔術も余り出番がない。


「大丈夫かシーナ!」


「お前が当てやすいように、コイツの気を引いて遊んでいるだけだ」


 グラビティ―弾は時速160キロと言う低速で撃ち出されるから、避けようと思えば避けられない速度ではない。


 特に足を不正にサイボーグ化しているヤツなら尚更。


 だから敵に発射のタイミングを計られてはならない。


 そしてグラビティ―弾で動きが鈍くなったところに、この除電装置を仕掛ける。


 サイボーグ化した部分は、通常の消化器官で得た栄養による力では作動しない。


 必ず電気エネルギーが必要となるから、この除電装置でその電力を奪ってしまえばサイボーグ化したパーツを動かすことはできなくなる。


 たとえるならリモコンで動くように信号を送っても、コンセントの入っていないテレビが何の動作もしないのと同じ。




 持っていたサブマシンガンを背中にタスキ掛けして、ファゴットを構えタイミングを計る。


 ヤツの視線が、こちらから外れた。


「離れる! 一斉射撃‼」


 コーエンが警官たちに指示を出す。


 シーナが離れるタイミングに合わせて、警官たちが一斉射撃を試みる。


 敵は派手なヘルメットとボディーアーマーを着用して完全な防弾仕様だが、それでも戦車のような構造ではないので完ぺきとは言えない。


 いくら図体がデカイと言っても、銃弾が当たる衝撃は有るだろう。


 それは特殊防弾スーツを着用しているシーナも同じこと。




 大男の懐から離れると、やっと距離が開いて使えるようになった機関銃を乱射して来たが、警官たちの援護射撃のおかげで照準が定まっていない。


 数発が体をかすめるがスーツのおかげで怪我はない。


「コーエン、今だ!」


 ヤツが銃弾BOXの交換をするタイミングで、再び一気に間合いを詰めに掛かる。


 同時にコーエンのファゴットが火を噴き、グラビティ―弾が発射される。


 ドン!


 グラビティ―弾がヤツの下半身に当たり、そのデカイ弾頭から強粘着性の樹脂が付着する。


 付着した箇所の関節を動かすためには、より多くの力が必要となり稼動速度も抑えることが出来るから不正にサイボーグ化して得た能力を相殺することが出来る。


 つまり下半身に当たったグラビティ―弾のせいで、ヤツは両足の股関節を動かす事が困難になったばかりか、体のバランスを取ることも難しくなったはず。


 側面に回り込み、一気にヤツの体に徐電装置を装着して放電させれば、このミッションは終了。


 ヤツのパンチを潜って、そのデカイ図体の脇腹に徐電装置を押し当ててスイッチを入れる。


 咄嗟にヤツの手が徐電装置を払い除けようと動くが、時すでに遅し!


 途中まで動いたところでヤツのアンドロイド化された腕は、電力を奪われて止まった。


「お迎えが来るまで、ここでお利口さんにしていなさい」


 動きの止まった奴の体に拘束用のワイヤーロープを巻き付けながら、その大きな体の上でキョロキョロと周囲を見渡している小さな目を見上げて言う。


 目が会って数秒後、ヤツがニヤッと笑い、その口の中でカチッと変な音がした。


 何か分からないが、嫌な予感しかしない!


 慌ててワイヤーロープにロックを掛け、飛ぶように離れる。


 その瞬間、ヤツが身に着けていたフロントバッグが爆発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る