第32話【ジョンFケネディー空港事件④(John F Kennedy airport incident)】

 爆風でコーエンの傍まで吹っ飛ばされる。


 一瞬目の前が真っ暗になり、意識が飛んだ。


「シーナ、大丈夫か‼」


 コーエンの声で再び意識が戻る。


「だ、大丈夫だ。なんともない」


 軽い脳震盪のうしんとうだ。


「自爆か!?」


「分からん‼」


 ターミナル中が白煙に包まれ何も見えないが、微かにパチパチと泡の弾けるような音が聞こえる。


「なんだ、あの音は!?」




 煙が薄くなってくると、次第に靄の中にヤツの影が黒く浮かび上がる。


「なんだ、ありゃあ……」


 再び現れたヤツの姿は衣服がボロボロに剥がれ、まるで焼けただれたようにドス黒くなった胴体に人工皮膚が剥がれて機械が剥き出しになった機械の手足。


「一体何をした!?自爆か??」


「違う。奴はバックパックにグラビティ―弾の樹脂を溶かす、強力な溶剤を隠し持っていたんだ。それで衣服が焼け落ちて、鋼鉄製のボディーアーマーから僅かに覗いている皮膚も爛ただれているんだ」


「じゃあ、あの爆発は?」


「爆発と煙は、溶剤が充分に作用するまでの時間、身を隠すためのモノ」


「しっかし、はじめから醜い野郎だとは思っていたが、まさかここまでとは思っていなかったぜ」


 他にも何か隠し持っているかもしれないので、ヤツの出方を待っているとヤツが急に悲鳴のような雄叫びを上げ出した。


「今度は、いったいなんだ!? まさか巨大化するんじゃねえだろうな?」


「コーエン、それは戦隊ものの身過ぎだ。そんなことは物理的にあり得ない!」


「だったら何??」


 予想される回答は、“溶剤で焼けただれた皮膚の痛みに耐えかねて”と言ったところだろう。


 だとしたらヤツは、その痛さで思うように動けないはず。


「もう一度私が注意を引く。コーエンはその隙にヤツの後ろに回ってボディーアーマーの隙間を狙え」


「ライフルは車の中だぞ!」


「ファゴットの弾は、グラビティ―弾だけじゃないだろう」


「榴弾か!」


「違う、徹甲弾だ‼」


 ファゴットは元々あったロケットランチャーを改造したものだから、グラビティ弾以外の弾も発射できる。


 そしてその威力はファゴット自体の性能ではなく、どの弾を使うかによって変わる。


 グラビティ弾の場合、初速160キロだったが、徹甲弾の場合は銃口初速時速900キロの猛スピードで撃ち出される。




「行くっ‼」


 今度はマーカー用の発煙筒に点火して勢いよく飛び出すと、赤い煙が尾を引くように着いてくる。


 直ぐにヤツが気付き機関銃を撃ってくるが、皮膚の痛みが酷いのか、狙いは定まっていない。


 煙に紛れて、柱の陰に身を潜める。


 あとはコーエンの狙撃を待つだけ。


 だが待てよ……こんなに見掛け倒しなヤツならコーエンの手を煩わすことなく、私一人でもなんとかなりそうだ。


 とりあえずヤツは痛さで動けないはず。


 背中に担いでいたサブマシンガンを構える。


 グラビティ樹脂を溶かした溶剤のせいで、ヤツの装着していた防弾スーツも溶けている。


 もちろん生身の胴体部分は鋼鉄製の防弾板を装着しているが、剥き出しになったサイボーグパーツはこのサブマシンガンの銃弾でも破壊できるはず。


 柱から飛び出し、ヤツに向けてフルオートで発砲する。


 “決まった!”


 そう思った瞬間、ヤツの姿が視界から消えた。


 “何!?”


 フッと柱の傍から気配を感じて慌てて飛び退いた瞬間、ヤツの繰り出したパンチに破壊されたコンクリートの破片が吹き飛んでくる。


 “ヤツだ!”


 気付くのが一瞬遅ければ、私もこの柱と共に砕け散っていたに違いない。


 だが、次は違う。

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