第29話【ジョンFケネディー空港事件①(John F Kennedy airport incident)】

 マンハッタンからブルックリンに向けて走っていると、管制センターのエレンから緊急無線が入った。


「シーナ、コーエン。ジョンFケネディー空港でCC(サイボーグ犯罪)発生。直ぐに第7ターミナルに向かって!」


「おいおい、俺たちが一番近いって訳じゃねえだろうな」


「残念ね、コーエン。アナタ達が一番近いのよ」


「Shit‼(クソッ)」


「まあまあ、怒らないで。これも任務よ」


「分かっているぜ。エレン中尉、犯人の情報は!?」


「敵は3人で、出発ロビーで暴れている。うち1人はこれまでにない超重量級よ。サイボーグ化は頭と内臓以外全てだと思っていいわ」


「頭以外全てだなんて無理よ、そんなの。第一犯人自身のエネルギーが持たないわ!」


「犯人は大型のバックパックとキャリアケースを持っているから、その“どちらか”あるいは両方がエネルギーパックだと思うわ。そしておそらく表面は防弾樹脂で覆われているからグラビティ―弾以外の銃弾は無効よ」


「ファゴットの出番だな」


「あとの2人は?」


「1人は右手に強化パーツを、もう1人は両足に強化パーツを装着。目的は分からない」


「分からないって、空港で暴れるなんてハイジャックじゃないの!? 飛行機には何人乗っているの?」


「はっきりとした情報は未だ入手できていないけれど、ボーイング777がほぼ満席らしいから乗員乗客合わせると400人前後よ」


「多いな……機内に居る犯人は何人だ?」


「機内には犯人は居ない模様よ」


「じゃあ、直ぐに機外に脱出させられるんじゃないの?」


「それが無理らしいの」


「なんで?」


「分からない。乗員乗客は皆座席に座ったまま動かないし、呼びかけにも応じないの。遠隔で中の様子を監視しているのかも知れないわ」


「……で、犯人側の要求は」


「それも、今のところ無いわ」


「要求も無しに人質を取っているって訳か?」


 コーエンが、素っ頓狂な声をあげて言った。


 たしかに、その通り。


 要求が無いのに人質を取る意味はない。


「今は、それだけ。アナタ達より約5分遅れてサンダースが到着する予定だから、今度は無理をしないで」


「了解よ!コーエン急ぐぞ‼」


「俺的にはコンビニで5分休憩してから出発したいね」


「ふざけないで!遅れると、それだけ犠牲者が増えるかも知れないのよ。それに任務中の会話は、すべてボイスレコーダーに記録されていることを忘れないで」


「ハイハイ」


「ハイは1回‼」


 車を飛ばし、タイヤを鳴らしながらカーブを曲がる。


 右前方にコンビニエンスストアが見える。


「コーエン、トイレ休憩は大丈夫か?」


「バーロ! 急がねえと軍曹が先に着いちまうぜ!」


 口では、あのように言っても、サボらない男。


 余計な一言を付け加えなければ、本当に好い奴なんだけど。




 けたたましくサイレンとタイヤを鳴らしながら、シーナの運転するマスタング8号車が爆走する。


 緊急車両で急いでいるといっても、ふつうは交差点を曲がる時くらいは減速するものなのだが、シーナの運転はそのようにはならない。


 まるで派手なカーアクションが売りのB級映画のように、そのまんまのスピードで曲がるものだからタイヤが大きな悲鳴を上げ、少しの段差でも車がジャンプして着地の時に床が路面に擦れて火花を上げる。


 他の車とも接触しそうに……いや、実際には何台かの車や物などには軽く接触している。


 それでもシーナはアクセルを緩めない。




 助手席で車に揺さぶられているコーエンは、あの時車の運転を変わらなかったことを激しく後悔していたが、心の片隅ではシーナがいつものシーナに戻ったことが嬉しかった。


「わっわっわっわっわーーーーーー‼‼‼‼ 止まれ!止まれ!止まれ‼」


 もう空港の敷地内だというのに、シーナはなおもアクセルを踏み続ける。


 コーエンが叫ぶのも無理はない、既に目の前には第7ターミナルビルだというのに車はまだ尋常ではないスピードを出し続けている。


 このままでは、止まれない!


 案の定シーナの運転するマスタング8号車は第7ターミナルの駐車スペースに止まることなく、そのまま正面のガラス窓を突き破って建物内でようやく止まった。


「エレン。到着した!」


 止まるなり無線でエレンに到着を知らせるシーナ。


 もちろん正面の入り口を壊して中に入ったことなど付け加えない。


「中に入って30メートルほど先の正面にエスカレーターがあるから、それを上って左奥の6番に向かって!」


「了解」


 車から飛び出して直ぐ目の前にあったエスカレーターを駆け上る。


 先に車を降りて、建物の損害状況を眺めていたコーエンが後ろを追いかける。


「建物に入って30メートル先のエスカレーターね……おいシーナ! 無茶やり過ぎだぜ‼」


「数秒でも早い方が良いだろう? それにインパクトもあるし、最高の映像美よ!」


「その映像美というやつが、ズームもマクロも関係のない監視カメラに撮影されて、請求書と一緒にCCSの事務局に送られてくるんだぜ。そして始末書を書いて“鉄仮面”や“鬼軍曹”に、こっ酷く絞られちまう」


「ご苦労様」


 シーナはまるで他人事のように返事を返す。


「特にサンダース軍曹はいつも、オメーの勝手気ままな行動にイライラなんだ。おまけに空港ターミナルに入るために、ワザとガラスを突き破って中に入ったなんて知れたら」


「まあ、それは分かっているけど……」


「オメーが犯人にヤラれて入院するのが早いか、軍曹が胃潰瘍いかいようで入院するのが早いか隊内で賭けをしているの知らねえだろう?」


「どっちが分がいい?」


「今は五分五分だ」


「それは詰まらないな。じゃあ私が、サンダース軍曹の胃潰瘍に1000ドル賭けるわ」


「1000ドル!? 大金だぜ! 大丈夫か?」


「大丈夫。私はサイボーグなどにヤラれはしない」

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