★CCS《サイボーグ犯罪対応班》士官候補生シーナ(CCS《Cyborg Crime Squad》cadet Sheena)★

湖灯

第1話【士官候補生シーナ出動!①(Cadet Sheena is dispatched)】

「パトロール中の全車に告ぐ、サウスブロンクスでサイボーグ犯罪発生!犯人はファーストフード店から現金を奪い、現在3番街通りを北に逃走中。犯人の特徴は身長180㎝の瘦せ型のヒスパニック系、ジーンズに赤のヨットパーカー、背中にオレンジ色のリュックを背負っている。左腕に違法改造されたサイボーグアームを装着しており、現場に居合わせた警官2名を負傷させているほか、銃も所持している模様。くれぐれも注意して任務に当たれ」




 パトロール中、無線機からサイボーグ犯罪発生の知らせが届く。




「あら、近いわね!」


「ああ、でもシーナは未だ見習中なんだから、無茶すんなよ」


「Yes, sir!(イエッサー)コーエン伍長!」




 士官候補生シーナが運転する8号車は、ウェルス通りから149Stとの交差点を目指して猛スピードで加速する。




「おいっ、サイレン!サイレン‼」


「ゴメン!余裕がない」




 路上駐車の列で走行車線の半分を塞がれたウェルス通りを器用に対向車を避けながら、前を行く車を次々に追い越して行くシーナの操るフォード・マスタングのパトカーが疾走する。




 車は左右に振られるだけでなく、駐車している車の陰から不意に現れる歩行者や自転車を避けるために急ブレーキと急加速も頻繁に行われ、上半身を支えるもののない助手席のコーエンは体を大きく振られてサイレンのスイッチに手を伸ばすもののナカナカそのスイッチを入れられずにいた。




「まもなく149Stの交差点に突入します。車の中で踊っていないで何かに掴まっていて下さい!」


「バーロー‼ 好きで踊っているんじゃねえ!」




「突入します。衝撃に備えて下さい」


「しょっ、衝撃に備えるって……‼」




 目の前を見ると、信号は赤。


 交差する149Stの対向車線にはバスと大型トラックが交差点に近付いて来ている。




「バッ、バカ!止まれ‼」


「間に合いません!」




 目の前には、トラックより少し前の中央車線を行くバス。


 急ブレーキを掛ければ、何とかかわすことが出来るが、そうすれば手前の車線を走るトラックに横腹から突っ込まれてしまう。




 運が良ければ車が2・3回転して重症。


 悪ければトラックの下敷きになって即死だ。




「うぁぁぁぁ‼」


 コーエンが最悪の事態に備えて、その長い足を狭い床から上げてインパネを踏むように体を支える。


 その拍子にシューズがサイレンのスイッチに当たってONになる。




 バスのテールランプがギリギリのタイミングで通過して行き目の前の視界が開けるが、合流する149Stにももう1台バスが居た。


 このままでは交差点を左に曲がった途端、今度はこのバスに踏みつぶされる!




 と思った瞬間、背後から迫りくる恐怖に背筋が凍り付く。




 まだ手前のトラックを避けられていない!




 けたたましく鳴り始めたばかりのサイレン音が、車の後方から聞こえる衝撃音によってかき消される。




 激しく車体後部が右側に振られる。


 このままでは交差点内で1回転してしまい、重大事故を引き起こしてしまう。




 ガシャッ!




 だが次の瞬間、左に振られた車体後部が道路と並行になる瞬間、並走していたバスの側面に当たり車の回転が止まった。




「ふう……」




 思わずため息を漏らすコーエン。




「サイレン有難うございます」




 真剣に前を見たまま運転するシーナが、礼を言う。




「サイレン!? 俺が入れたのか?」




「あんな困難な状況でサイレンのスイッチを入れることが出来るのはコーエン伍長くらいなものです。さすがCCS(Cyborg Crime Squad=サイボーグ犯罪対応班)の副分隊長ですね」




「バーロ、おだてるな。に、しても無茶し過ぎだぞ! ぶつけたトラックとバスは始末書もんだぞ!」




「大丈夫ですよ。直前でサイレンのスイッチが入りましたから、事故当時この車両は緊急出動中となりますので事故の責任は負いません。あの状況で、咄嗟にスイッチを入れて下さったコーエン伍長のおかげです」




「まっ、まーな……」








「全車に告ぐ、サウスブロンクスで起きたサイボーグ犯罪の犯人は3番街を左に曲がり151Stに入り逃走中。繰り返す、犯人は3番街を左に曲がり151Stに入り逃走中」




 再び犯人の情報を伝える無線が入る。




「――だとよ、今度は慎重に曲がれよ。犯人を目の前にしてペシャンコになっちまったら笑い話じゃ済まねえ」




「Yes, sir!(イエッサー)」

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