第2話【士官候補生シーナ出動!②(Cadet Sheena is dispatched)】

 交差点が近づき、視界が開けた。




「左の3番街通りで、救急車が負傷した警察官を収容しています」




 シーナの言葉にコーエンが交差点の左側を見ると、まるでボクシングの試合で壮絶なパンチの嵐を食らってノックアウトされたボクサーのように顔を腫らした警官が、ストレッチャーに乗せられて救急車へと運ばれるところだった。




 サイボーグ犯罪の特徴的な光景。




 違法に力が出るように改造されたサイボーグパーツを装着した者のパワーは、常人を遥かに超えている。




 もともとは肢体不自由者のための医療技術。




 事故や病気で切断せざる負えなくなった腕や脚に代わって使用できるサイボーグパーツは、障碍者の社会復帰に明るい未来をもたらした。




 だが、それを違法に改造して犯罪に利用する者も現れた。




 特に犯罪多発地帯であるニューヨークでは、日増しにサイボーグ犯罪は増えるばかり。




 改造パーツにより、常人を超えたパワーを持つ犯人に対して警察は大打撃を受け、そこで陸軍から選抜された隊員で組織された我々CCS(サイボーグ犯罪対応班)が発足した。




 と呑気に考えながらシーナの言葉に騙されて、救助されている警官を見ていた俺がバカだった。




 次の瞬間149Stから3番街通りに入るため右に急ハンドルを切った車に、体が左に持っていかれて俺は窓にへばり付くようなかたちになった。




 今度は右折で、しかも信号は青なので対向車とは交錯しないが、交差点には横断歩道が在り、そこを歩行者や自転車が通る。


 直進が青と言うことは、右折した3番街通りにある横断歩道の信号は青のはず……。




 突然横断歩道に侵入してきたパトロールカーに、横断歩道の真ん中で立ち止まった熟年の女性と目と目があう。




 その目は驚きのあまり、まん丸に見開かれている。




 俺は何とかしようと思い、車の窓に張り付いたままの顔から無理やり笑顔を作り、軽く手を振って謝罪の意思を示した。




「バカ野郎‼こんなスピードで、横断歩道を突っ切る奴がいるか!」




「左に曲がります!」




 俺の言葉が耳に入ったかどうか定かではないが、シーナが左に曲がると言ったので今度は体を持っていかれないように体勢を整えた。




 相変わらずシーナは対向車などまるでいないかのように、ハンドルを切る。


 俺も男だ、これしきの事で何度も騒ぎたてるなんて真似はできないと、我慢する。




 曲がった先は151St。


 そして、この先には逃走する犯人が居る。




 目を凝らして犯人を捜そうとすると、目の先に見えるのは、こっち向きに走ってくる車の列。




「151Stは、一方通行だ‼」




 大声でシーナに知らせる。




「了解!」




 シーナは初めから分かっていたのか、車を歩道に乗り上げて迫りくる車をかわして、路上駐車の列の隙間から本線に戻ると縫うように車を避けながら走る。




 激しく左右に振られる体を支えるため、犯人を捜すどころではない俺に、シーナが犯人を確認したと言って左に急ハンドルを切って道路をふさぐように車を止めた。




「CCS(サイボーグ犯罪対応班)です。アナタを逮捕します」




 いつのまにかドアを開けて犯人と対峙しているシーナの声を聞いて俺も慌てて外に飛び出すと、丁度正面から急ブレーキを掛けて車体を斜めに振られながら突っ込んできた車にひかれそうになり慌ててヘッドスライディングするように飛び退いた。




「ヤロー!」




 車の陰から犯人の叫び声が聞こえた。




 車はパトロールカーにぶつかる寸前で止まったが、その直ぐあとに車体の揺れと共にガシャリと言う何かが車に当たる音がして慌てて横になった体を起こしてシーナの名を呼んだ。




 目の前に飛び込んできたのはボンネットの上に仰向けになっている犯人。




 そしてシーナは犯人の違法にサイボーク化されたその左腕を押さえていた。




「犯人確保か、手錠を……」




「いいえ、まだです」




「!?」




 シーナはそう言うと、半分ボンネットから飛び出していた犯人の左腕を圧し折るように軽くジャンプしてから体重をかけて下に押した。




「ギャー‼」




 一方通行の路地に犯人の悲鳴が轟く。




「終わりました」




 下に押した拍子に、いったん車の陰に隠れてしまったシーナの姿が現れる。




 手には、もぎ取られた犯人の腕。




 サイボーグパーツだとは言え、その固定は生身の体と繋がっているから、血が滴っていた。




「そこまでする必要はあったのか?」




 腕をもぎ取られた犯人に同情するわけではないが、思わず口に出てしまった。




「こういうモノが有る以上、サイボーグ犯罪は終わりません」




 いつも涼しい綺麗なシーナの瞳が、怒りに燃えていた。

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