第51話【ソシェルの話①(Conversation with Sorcière)】

「カッシーノ一味も、同じ考えなのか?」


「まさか、アイツらはアンタを倒せば勝てると思っているわ。だから、アンタに捜査を丸投げしたでしょう?」


「警察の中にも内通者が居ると言うことか」


「そう。CCSの中にもね」


「……」


「CCSの中に、内通者なんて居るわけないでしょう‼ デマを流して私たちを混乱させようとしても、その手には乗らないわよ!」


 ビアンキ中佐が反論しないので私が大声を出して反論すると、ソシェルが冷たい目を向けて私に言った。


「アンタ、バカなの?」と。


 言われた意味が分からなかった私は、ビアンキ中佐に助けを求めた。


「……つまりソシェルが言っているのはJFK空港で起こった事件の事だ」


 JFK空港事件と言われても、CCS内の内通者の話がつながらない私を察して、更に続きを話してくれた。


「あの事件でサンダースが射殺した大男が居ただろう、両手両足をサイボーグ化したヤツが」


「はい」


「あの男は、あらかじめグラビティ弾を撃たれる事を承知したうえで、その粘着物を除去する溶剤をフロントバックに入れていた」


「でも、それはただ単に敵がグラビティ弾に対抗する処置を施していただけの事ではないのですか?」


「ま、まあ、そうとも言えるが……」


 ビアンキ中佐の歯切れの悪い返事に苛立ったソシェルが、その後を付け加える。


「アンタ格闘技や戦闘の勘は鋭いようだけど、物事の詳細な部分を見極める繊細さは持ち合わせてはいないようね!」


「そ、そうですか……」


「グラビティ弾も、それを発射するファゴットも新兵器でしょう?」


「その通りですが」


「……他の現場で、使ったことは?」


「ありません。今はまだコーエンしかファゴットを携帯していませんので、JFKが初めてです」


「だったら、分かるわよね。敵が持っていた溶剤の意味が」


「ようざいの、意味?」


 溶剤に何の意味が有るのだろう?


「チョッと、そこに座りなさい」


 ソシェルが床を指さす。


 オッサンがスーッと2人分の枕を座布団代わりに床に敷いてくれる。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 オッサンはニコッと笑顔を見せて、特別室だけにある給湯室に消えて行った。


「あのね、軍の新兵器と言うものはCMで宣伝するわけじゃないから、軍関係者でもない限り、名称はおろか、どんな兵器かも普通の人たちは分からないのよ」


「はあ」


「しかもグラビティ弾は溶剤性の強粘着性物質よ、それを無効化するには多種多様の有機溶剤などの中から実物を使って実験しないといけないのよ、分かる!?」


「中性洗剤とかでは駄目なのでしょうか?」


「無理無理! 例えば水溶性の物であれば水や中性洗剤でもいいでしょうけれど、アクリル系ならアクリル、アルコール系ならアルコールと言うふうに、それを構成するために使用された添加物と同じものや、その添加物を溶かす作用のあるものが必要なの。たとえば油汚れには石鹸と言ったふうにね」


 ここで、いつの間にかオッサンが持ってきた日本茶を皆で少し飲んでソシェルは話を続けた。


「つまり、グラビティ弾の強粘着樹脂があの場で一瞬のうちに溶かされてしまったと言うことは、アナタたち軍内部の人間の中に裏切り者が居ると言うことになるの」


 裏切り者と聞いて、カチンときた。


「コーエンは、決して裏切ったりしない」


「そりゃあコーエンは大好きなシーナちゃんを裏切るようなことはしないわ、なんたってお馬さんパカパカだものね」


「お馬さんパカパカ??」


 ソシェルが言った意味の分からないビアンキ中佐が、恥ずかしい部分を復唱する。


 私は顔を真っ赤にして、空中にバラ撒かれた言葉を掻き消すように大きく両手を振り回し、小さな声でソシェルに聞いた。


「見ていたの?」と。


 ソシェルは急にニヤニヤして「見てたわよ」と囁き返した。


「キャーキャー‼」


 もう赤くなった顔を隠すしか手がなく、それを見てオッサンが調子に乗って囃し立てていた。

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