★CCS《サイボーグ犯罪対応班》士官候補生シーナ(CCS《Cyborg Crime Squad》cadet Sheena)★
第50話【誰がドアの向こうで待っていたのか②(Who was waiting behind the door)】
第50話【誰がドアの向こうで待っていたのか②(Who was waiting behind the door)】
「失礼します、検診です……」
「あら、いらっしゃい。可愛いらしい女医さんね。それに後ろの人はカッコいい軍服を着て。今日はハロウィンかしら?」
部屋の中に入ると先客がいた。
先客も何故か私と同じ女医の格好をしていたが、女医を名乗るには無理があるほど色っぽい。
「コスプレのつもりか? ソシェル」
「コスプレ? どう見ても女医でしょう」
ソシェルは、そう言うと体をくねらせてボディーラインを強調して見せる。
CCSの隊員2名が乗り込んできたと言うのに、少しも臆するところもない。
相変わらず不思議なヤツ。
「外で仲間が見張っているのに、そんな格好をする必要などなかっただろう」
「外に居たヤツ等は、仲間じゃねえよ」
不意に背後から男の声がして振り向く。
「オッサン……」
特別室にあるトイレから出てきたのは、看護師の服を着たオッサン。
水を流している音がすると言うことは、そこに隠れていたのではなく用を足していたと言うことなのか?
なんとも、オッサンらしいが“手は洗ったのか!?”
部屋の中を見渡すと、サイボーグパーツを取り外された犯人2人がベッドに寝ていて、中に居た偽警官3人がのびたまま縛られていた。
犯人の容態に異常はなかったが、手術による体力の低下で意識がもうろうとしている様子だった。
それほどサイボーグシステムの装着に関する手術は患者に負担がかかるのだ。
「警官は全て偽者。こいつ等もカッシーノの手の者よ」
「カッシーノ……」
「カッシーノとは、ニューヨーク最大のマフィアだ」
カッシーノを知らなかった私に、ビアンキ中佐が耳打ちして教えてくれた。
「仲間ではないのか?」
「仲間?冗談じゃないわ。アイツ等はあの夜、警察の一斉捜査が入ったと言うアナタの上司ビアンキ中佐の仕掛けた罠にマンマと引っ掛かり、臆して私たちを見捨てて逃げたのよ」
「だから今度は、アナタたちがカッシーノ一味を裏切る番ってこと? 子供みたいね」
「そう。子供みたいに単純なのが、私たちの稼業よ。それにしてもアンタ、無神経なの?」
無神経の意味が分からなかったので「なぜ?」と不審な顔を向けた。
「だって普通なら親の偽善的な行為によって、アンタの大嫌いな犯罪者が生まれた。なんて言われたら、悩むでしょ。なのにアンタときたら、まるで悩みなんてなかったように今までと同じように戦っているじゃない。ニル・アドミラリなの?」
ニル・アドミラリとは、何事にも無感動なこと、または人を指す言葉。
でも私は、そうではない。
むしろ、その逆。
だから、悩んだし、苦しんだ。
でも私には、仲間がいる。
コーエンやミーシャ、それにジェフやスタントン、ほかにもCCSの仲間たちが私の悩みを思いやってくれたからこそ、その苦しみから解放された。
ソシェルの言う通り、サイボーグシステムによりCC(サイボーグ犯罪)は生まれた。
しかしそれは開発者の問題ではない。
たしかに高額な医療は万人には行き届かないが、それによって救われた人もいる。
問題なのは全ての肢体不自由者に行き届くように支援する体制の問題。
国の支援や、保険制度が追い付いていないから。
特にここアメリカでは公的医療保険制度がなく民間に委託されたものとなっていて、受けられる医療レベルに応じた加入料金が必要となっていて、日本のように全ての人が同じ医療サービスを受けることが難しい。
その日本でさえ保険が適応される医療行為には制限が設けられていて、義手義足は保険が適応されるがサイボーグシステムの装着は保険外医療。
それを変えることは、今の私には到底かなわない。
だから私は、今できることに集中することにしたことをソシェルに伝えた。
「さすが、私が見込んだだけのことはあるわ」
「ひょっとして私を誘い込んだ?」
「そうよ。最初はリリアン・ビアンキ、アナタがお目当てだったけれど、あの晩シーナちゃんと出会って気が変わっちゃったの。だから、気を悪くしないでリリアンちゃん」
ちゃん付けで1stネームを呼ばれたビアンキ中佐は、特に表情を変えることもなく「私がオマエの立場でも、同じように考えただろう」と言った。
ソシェルもその言葉を聞いて少しだけ口角を上げて頷く。
なんとなく2人は似ていて、なんとなく私だけが蚊帳の外にいるような気がした。
〝敵の話を肯定して、どうするんだよ!?″と私一人だけがその不安に耐えかねて慌てていた。
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