第35話【事件後②(After the incident)】
基地に戻るとエレンから、直ぐにメディカルチェックを受けるように言われ基地内にあるメディカルセンターに向かった。
医師の指示に従い問診のあと聴診器と触診検査を受け、CT検査をして血液を採取して終了。
検査結果は後程上司に連絡すると言う事だったので、特に何もなければ再びここに赴くことは無い。
思ったよりも早く終わったので余裕で報告書を上げて、この調子ならもう一度パトロールに出られると思っていたところ、鉄仮面ことビアンキ少佐に呼ばれた。
リリアン・ビアンキ。
幼いころから飛び級しまくりで、この若さにして既に医大と士官学校を卒業している天才。
しかも26歳の若さで中佐に昇進し、今ではCCSニューヨーク東地区を任されているエリート。
高身長で胸も大きくてスタイル抜群の情熱的な美女だが、意外と恋バナの噂はなく遊んでいる様子もない。
「シーナ・クラウチです」
「入れ」
ビアンキ中佐のオフィスのドアをノックして、部屋に入る。
「どうしてサンダースを待たずに勝手に行動した!?」
開口一番に、少佐は目の前にあるノートパソコンで何かの作業をしながら問いかけた。
視線は部屋に入った時にチラッと私に向けたきり、あとはパソコンの画面を見続けている。
「状況的に早く動いた方が良いと思ったからです」
「思った? その根拠は?」
「ありません」
「ない!? 科学的根拠や、判断の元となる物的または状況的な根拠は!?」
「ただ、犯人たちが我々の注意を引き付けて時間稼ぎしていると、私が感じたからです」
「それだけか」
「はい、それだけです」
「……それだけでコーエンや警官たち、果ては後から来るサンダース軍曹たちまで危険に晒したとは思わないのか? サンダースたちを待てばCCSのメンバーは4人になるが、お前たちが犯人グループに叩かれてしまえばサンダースたちが到着しても2人のままなのだぞ。目先の犯人に心を奪われて、簡単な足し算さえも出来なくなったのではあるまい」
美人の誉れ高いビアンキ中佐は、どんな時でもあからさまに表情を変える事は無いし、声を荒げる事もない。
それだけに冷徹な印象を与える。
10歳で医大に入り、博士号を取得したのち士官学校に入り直した超ド級の才女。
一部の隊員たちの間では“鉄仮面”とか“見下し美人”と揶揄されている。
だけど私は、その様には思っていない。
“鉄仮面”にしても“見下し美人”にしても、中佐本人から遠ざかった目線で勝手につけられた仇名。
つまり単なる臆病者、言わば“負け犬の遠吠え”的な仇名だ。
「失礼ですが私はそうは思いません」
「では、どう思う?」
「もし犯人グループが時間稼ぎの目的であの場所に彼ら3人を置いていたとしたなら、こちらが4人揃おうが10人揃おうが彼らの目的通り時間を浪費させられてしまいます。そうなれば、いくら彼らを倒したところで犯人グループに勝ったことにはなりません」
「……ところで犯人グループの目的は何だったと思う?」
ビアンキ中佐が、話を変えた。
「ハッキリ“そうだ”とは言えませんが、私は犯人が何者かと交渉していたのだと思います」
「政府関係やマスコミをはじめ空港関連の企業などにも、交渉した記録は残っていないぞ」
「おそらく“個人”との交渉だったのではないでしょうか?」
「個人……では乗員乗客の中に、交渉相手の家族が?」
「いえ。おそらく居ません。家族を人質に取って脅せるような相手なら、残りの399人を道連れにする必要はありませんし、だいいち燃料満載の航空機を狙うという大掛かりなことをする必要もないでしょう」
「……なるほど、面白い推理だな」
「ありがとうございます」
「話を前に戻すが、サンダースの到着を待たなかった明確な理由を応えろ」
中佐が2度目に目を上げて睨む。
「私の直観でも構いませんか?」
「構わん」
「この事件が時間との戦いだと思ったからです」
「……なるほど」
ビアンキ中佐は、そう言うと広げていたノートパソコンをパタリと閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます