第34話【事件後①(After the incident)】

「コーエン。シーナを連れて基地に戻れ」


「あがっていいんですか!?」


 コーエン伍長がホクホク顔でサンダース軍曹に聞いた。


「馬鹿、お前は基地で待機だ。応援が必要な時は直ぐに出られる用意をしておけ」


「お前って言う事は、俺だけ?? シーナは?」


「シーナには報告書を書いてもらわねばならん。俺が来るのを分かっていながら、勝手に行動しやがって。これで何回目だ? もう5回や10回では済まないだろう?」


 サンダース軍曹が上から睨みつけるので、私は恐縮して上目遣いに「17回目です」と、間違いを訂正すると軍曹の眼光は一層厳しくなった。


「……まあいい。報告書に取り掛かる前に、直ぐに基地内の医療施設でメディカルチェックを受けろ」


「何故です?」


「爆風で飛ばされた時に、脳震盪を起こしただろう」


「心配してくれて有難いのですが、あれは脳震盪と言うより、軽い貧血みたいなもので異常はありません」


「馬鹿野郎! お前の心配じゃない仲間のためだ。もし医者に診てもらわなかったせいでお前が戦闘中に倒れたらどうなる? その時に今日の様に応援が来る前に勝手に“おっぱじめ”ちまっていたとしたらコーエンはどうなる?」


「いや、俺は」


「オメーは黙っていろ‼」


 横から口を出したコーエンが怒鳴られて黙る。


「いいか、俺たちはチームだ。シーナお前はそのうち小隊長になる。だから自分の判断で勝手にしたけりゃぁすればいい。だがな、仲間への責任くらいは最低限持ってもらわないと困るし、そうでないとチームは全滅してしまう。分かるか?」


 軍曹は最後の一言だけ、優しく諭すように言ってくれた。


「分かりました。司令官に報告後すぐにメディカルチェックを受け、その後報告書に取り掛かりますが、何かあれば私も出動します」


「報告書は、どうするつもりだ」


「戻ってから、徹夜してでも明朝の提出期限には出します」


「……好きにしろ。だが出動の可否はビアンキ中佐が医務長に聞いてから決める。いいな」


「了解しました」




 現場の方はサンダース軍曹たちに任せて、私達はブロンクスにある基地に戻ることにした。


 とりあえず破れたスーツの左足の部分と、ブーツを履き直して車に向かう。


 着用している時は少し厚手のウェットスーツみたいな感触だけど、着ていないとさすがに防弾仕様だけあって重いが、これから基地に戻るまでに何が起こるか分からないので身に着ける事にした。


 破れたせいで太ももの部分の隙間から肌が露出してスースーする。


 服は破れるし、鬼軍曹には怒られるし、これから基地に戻ってメディカルチェックに報告書……あー、もう最悪!


 私の暗い気持ちとは裏腹に、隣を歩くコーエンは何だか楽しそう。


 て言うか、鼻の下を伸ばしてニヤニヤしている。


「コーエン、何をニヤニヤしているの?」


「いやっ、な、なんにも」


 直ぐに否定したが、どう見ても怪しい。


 いつもならスルーするところだけど、さっきサンダース軍曹に怒られたばかりで気分がムシャクシャしていたから執拗に訳を聞く。


「生死を共にするパートナーなんですから、隠し事や嘘は無しよ!」


「ああ」


 と生返事で逃げようとするコーエン。


 でも、今は許さない。


「だったら、理由を話して」


 車に向かう進路を塞ぎ、コーエンの前に仁王立ちして、その背の高い顔を強く睨む。


「あー……き、気を悪くしないで欲しい」


「ええ、いいわ」


「それ」


 コーエンの指が私の下半身を指さす。


 何だろうと思って見てみるが、そこには破れたスーツの足の部分を履いた左足以外なにも変なところはない。


「これが、どうしたの?」


 訳が分からず、キョトンとして再びコーエンの顔を見上げる。


「いや……チョ、チョッとだけ見えるっていうのは、履いてねえより随分エロいなって思って……」


「エッチ‼」


 思わずコーエンの膝を蹴ってしまう。


 膝を蹴られて倒れた同僚を置いて、一人で車の助手席に乗り込み俯く。


 そこにはスーツの僅か10センチにも満たない隙間から覗く白い肌が見えるだけ。


 これだけの色と質感の違いの、どこがエロいのか分からない。


 まったく男と言うヤツは……。

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