ポンコツ魔導士
マキナはポンコツである。
人の気持ちを真に理解出来ず、他人の発言をそのまま鵜呑みに、目の前にいる人物が男か女かの判別もイマイチつかない男である。
「……そ、その……自分と、と、トイレですかぁ?」
「うん。そう。僕もトイレ行きたかったし、君もトイレ行きたかったから……一緒に行きたいなって、駄目?」
攫われた王女様を助けるための行軍。
勇者パーティーだけで行っても良いのだが、王女を攫った先が多くの兵士が砦を占拠しているような場であるため、敵拠点を殲滅させる意味も込めて多くの
そんな行軍の途中でマキナは一人の騎士を相手にトイレへ行こうと誘っている最中であった。
「いや……その、駄目ではな……や、優しくしてもらえるとぉ……」
「……?」
もじもじとした様子の騎士が発する優しくしてもらえると発言にマキナが首をかしげる……何を優しくするのだろうか、と。
「マキナッ!」
「あふん!?」
そんなやり取りの最中でマキナの頭にグレイスのげんこつが落ちる。
「えっ!?何!?」
「何!?じゃないよ。女性の人をトイレに誘うな!」
「……女性、えっ!?女性!?」
マキナは困惑しながら自分の前にいる女騎士へと視線を送る。
目の前にいる騎士はどう見ても髪の毛が短いし、筋力がとんでもないことになっている。彼の目にはどう見ても男にしか見えなかった。
「……ッ!?!?」
マキナが本気の困惑の表情を浮かべながら女騎士へと視線を送り、逸らしては送るを繰り返す。
「あっ、触って確かめますか?」
それに対して女であることをようやく認識してもらい、それでもなお疑われている女騎士が真顔で触るかどうかを確認する。
彼女が身に着けているのはお高い全身鎧ではないため、彼女の股はそのまま触って確認することも出来た。
「あっ、じゃあ……」
女騎士の言葉を快諾して股の方へと伸ばされるマキナの手……それが突然断たれる。
地面に転がるマキナの腕が血だまりを作り、断たれたマキナの腕から血の噴水があがる。
「……ッ!?!?」
「痛い」
突然己がマキナの血によって赤く染まったことに面食らう女騎士と一切表情を変えずに不満げを声を上げるマキナ。
「……マキナ?」
そして、マキナの腕を斬り落とした張本人であるグレイスは一切悪いびれた様子なくマキナを睨んでいた。
「僕は伸ばして良いよ?と言われたから伸ばしただけ。何も悪いことはしていない。むざぁーい」
「マキナ?」
「何故僕がそこまで睨まれなければならないのか、甚だ不本意である。意味が分から」
「マキナ?」
「僕が何をしようと僕の自由であ」
「マキナ?」
「僕はぼ」
「マキナ?」
「……ぼ」
「マキナ?」
「……ごめんなさい」
マキナはグレイスの圧に敗北する。
「いやいや!?何しているんですか!?大丈夫なんですか!?」
だが、そんな二人のやり取りを端から見ていた女騎士が慌てて駆け寄って優しくマキナの腕を掴む。
「……っ」
「……?」
それに対してグレイスは不快そうに眉を顰め、マキナはなんで心配されているのかわからないと言った様子で首をかしげる。
「こ、こんなに血が出て!?」
「別にこれくらい平気ぞ?」
自分の手を掴む女騎士の手から逃れたマキナはそのまま血が溢れ出す自分の腕を振って地面に血で絵を描き始める。
「い、いやいや!それでもだめですよ!」
「感覚としてはちょっとよだれが垂れちゃった感じ?」
「そ、そんなわけないでしょう!?早く出血を!」
「もー、心配性だなぁ……よっと」
マキナは心配そうにしている女騎士を前にして苦笑しながら自分が不得意としている回復魔法を発動。
断たれた自分の腕を回復する。
何ら魔法もなく、ただ両断されただけの腕の回復することなと、回復魔法が得意ではないマキナであっても簡単に出来ることだった。
「え?……そんな、え?」
「返り血も何とかしないとね」
マキナは指パッチンを一つ。
ただそれだけで魔法が発動し、至るところに散らばったマキナの血が消え、地面に血だまりを作っていたマキナの落ちた腕も消える。
「よし、これで大丈夫だよね?」
一瞬にしてマキナの腕が断たれた
「ほ、本当に……回復し、て?」
回復したばかりの両断面を確認しようとマキナの元に近づこうとする女騎士をグレイスがやんわり止める。
「別に平気だよ。これくらいうちのパーティーじゃ日常茶飯事さ。僕たちはちょっとぶっ飛んでいるからね。これくらいちょっとしたじゃれ合いでしかないのさ」
普通の感性がぶっ壊れており、男女の判別すらつかぬポンコツに愛が為に狂っている化け物が三人。
それこそが勇者パーティーであり、そのパーティー内で常識が通用しないのは当然と言えば当然であった。
「すまないね。うちの馬鹿に付き合わせて」
「……ッ!?」
「君は仕事に戻りなさい」
「……は、はい」
勇者パーティーの在り方に、圧倒された女騎士はグレイスの言葉へと素直に頷いて二人の元から離れる。
「……にしても女性だったのかぁ」
それ見送るマキナが申し訳なさそうな声色で口を開く。
「後で謝らないとなぁ。じゃあ、僕は一人でトイレに行ってくるよ」
「あっ、僕がついて行ってあげようか?」
「いや、グレイスは良いよ」
「……ミッ」
変な声を上げて固まるグレイスを無視してマキナは一人、森の奥へと消えていくのだった。
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