勇者たちの乱舞➀
とある龍が根城とし、その龍の強さ故に誰も近寄れぬ無人の山脈となっていたはずの場所で。
「今日という今日は……ッ!今日という今日だけは許さない。なんで僕というものがいながらほいほい女についていって騙されて金銭失っているんだ。奪われた金額だけで一つの街が十年は安泰というレベルじゃないか。騙されて奪われて良い金額じゃないし、なんでそれだけ持っているんだ。おかしいだろ……!」
「……許さない。許さないのじゃ。あの女狐は必ず殺すのじゃ。じゃが、それよりも前にマキナじゃ。やっぱりマキナは駄目なのじゃ。底なしのお人好しの英雄願望所持者だから、わしが守ってやらねばすぐに騙されるのじゃ。このままじゃ駄目じゃ、駄目なのじゃ」
「……っ」
とある四人が。
人類の希望たる勇者パーティーの四人が激しくぶつかり合っていた。
「……ッ」
マキナが迎え撃つのはグレイス、レミヤ、レーテムの三人。
ほぼリンチといえるような状況であった。
「ふぅー」
そのような状況であってもなおマキナは三人を相手に魔法で応戦していく。
マキナが腕を振るだけで百の魔法が発動し、グレイスたちへと牙を剥く。
「無駄っ!」
それを真正面から突っ込んですべての魔法を弾き返すグレイスは一瞬にしてマキナとの距離を詰める。
「聖剣エクスカリバー」
自分に向けて振るわれる山を打ち砕く一撃。
「っとと」
それを転移で回避したマキナは転移先を予測して迫っていたレミヤの拳を避ける。
レミヤは拳闘士。素手による武術を極めるものである。
「……っ」
マキナとて動けないわけではないが、レミヤと比べたら数段劣る。
早々に拳でのやり合いを避けるべく逃げようとするマキナをレミヤは執拗に追いかけ、その途中からグレイスも参戦し、二人がかりでマキナを近距離戦で追い込んでいく。
「んなぁー」
転移で避けようにも発動する隙を与えないために二人がマキナを間髪なく攻め立ててくるせいで間に合わない。
「……自爆」
そんな中でマキナが選んだのは自爆。
二人がちょうど自分を狙って腕を伸ばしたその瞬間に盛大に自爆。爆風吹き荒れる凄まじい爆発を起こした
「ふぃー」
盛大に破裂し、バラバラに散らばった肉片の一つから無事に再生してみせたマキナはほっと息を漏らして魔法を発動する。
「……」
盛大に吹き飛ばされた影響でまともに避けることも難しそうなグレイスとレミヤの身を守る結界を展開するとともに、レーテムはマキナにもデバフをかけていく。
「デバフは勘弁なんだけど……ッ!」
デバフは勘弁してほしいとマキナは願うも、だからといってレーテム渾身のデバフを完全に防ぐことは難しい。
幾分か体を動かすのが難しくなる中で再び態勢を戻して自分へと向かってくるグレイスとレミヤからマキナは逃げながら魔法を乱れ打ちしていく。
「かったいなぁー」
全力逃亡からの魔法の連射。
それらを繰り返すマキナは全然壊れないレーテムの結界に苦笑する。
「流石にきっつい……ッ!」
グレイスもレミヤも本職は近距離戦闘であり、遠距離戦は得意としていない。
今の離れた距離を維持し続けることが出来れば負けることはないだろうが、少しでも距離を詰められれば容易に負けられる。全然油断は出来なかった。
「……ッ!?」
グレイスとレミヤから逃げ続けていたマキナ───そのすぐ傍らにレーテムが忍び寄っていた。
レーテムは巧妙に己の気配を誤魔化し、二人に意識を割いているマキナの意識を縫うようにして彼へと近づいていたのだ。
「いつの間に……ッ!?」
「『止まれ』」
驚きながらも慌ててレーテムから距離を取ろうとするマキナであるが、レーテムから発せられる
「世界魔法───安寧天手」
世界結界。
その効力は隔離と拡張と必中。
結界によって外界との繋がりを絶ち、本来は手のひらからでしか発動出来ない魔法を結界のどこからでも発動出来るにし、すべての魔法に必中の効果を与える。
「……最悪」
一つの魔法の極地が世界結界であり、世界結界内で拡張と必中の効果を得られる魔法はたた一つ。
だが、それでも何処からからも避けられない魔法が飛んでくる逃げられぬ囚われの檻であることには変わらなく、絶大な効力を持つことには変わらない。
「これは……僕に世界結界を使わせなくするためのものか」
完全無敵と思われる世界結界ではあるが、致命的な欠点も存在しており、それは結界内に閉じ込められた魔法が世界結界を発動した瞬間、あっさりと上書きされてしまうということである。
「レミヤの世界結界で僕に勝利するのは無理だからね」
「……ムカつくことを言ってくれるものじゃ。まぁ、事実ではあるのじゃが」
レミヤが極めた魔法とは吸収。
触れるだけで相手の魔力も生命力も奪い去ってしまう魔法が拡張されたこの世界ではただいるだけで奪い去られる。
凡人であれば立つだけで魔力も生命力もたちまち吸収されて消えてしまうだろう。
「……問題なし」
急速に吸われていく己の魔力と生命力。
だが、それであってもなお揺らぐことのないマキナは一言つぶやくと共にこれまで通り手元に魔力を貯めていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます