模擬戦
修練なんて長々とやっていても疲れるだけで大した意味はない。
ちょうどいいところで切り上げるのが一番である。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ」
程々のところで修練を切り上げて世界結界を解いた後、マキナはその両手をレミヤとレーテムに握られた状態で頭が下に、足が上となっており、その口にはグレイスの魔法によって作られた水が突っ込まれ、それが彼の体をシェイクしていた。
「「「……」」」
鬼気迫る様子でそれを行うグレイスたちに仇の剣の面々が絶句し、何も言えなくなる。
「……もう良いだろう」
それをしばらく続けたのち、ようやくグレイスたちはマキナを解放する。
「ほげぇぇぇぇぇぇぇぇ」
開放されたマキナは地面に倒れて口から滂沱の血を垂れ流す。一部、内臓のようなものまで吐き出してる。
「あわわ……だ、大丈夫なの!?」
そんな光景を前にして我慢できなくなったルリアが思わずと言った形で声を上げる。
「ん。問題ないよ?再生出来るし」
それに対してケロッとした様子で立ち上がったマキナがルリアへと軽い口調で告げる。
「……再生魔法は完全に痛みまで消すような魔法ではないはずですが」
「そ、そうよね?」
「僕痛みなんてわからないし」
ルリアとビルヘンの言葉を軽く受け流すマキナは自分の口から溢れ出した血やら内蔵やらを丁寧に処理していく。
「よし!オッケ!ということで今日はこれで解散……また明日ね!僕は酒場に行ってくるよ!」
「まだ飲むの!?」
一方的に解散を宣言し、再び飲もうとする彼へのルリアのツッコミを無視してマキナは酒場に向かうのだった。
■■■■■
その次の日。
「……うぅ、頭が痛い」
再び修練のために集まった面々の前でマキナは二日酔いで死んでいる様を見せつけていた。
「じゃあ、まずは魔力循環をしばらくやった後、早速ではあるけど模擬戦でもしていこうか。細々としたのを教えるのも面倒だし、ある程度雑でもわかるよな?」
そんなマキナの代わりにグレイスが仕切り始める。
「二日酔いくらい魔法で消せないのじゃ?」
「なんか消したら負けな感じない?二日酔いも含めての酒飲みじゃん」
「……えぇ?わしにはわからぬ感性じゃ」
グレイスに仕切られれる仇の剣の面々が各々魔力循環を行っている間、マキナとレミヤはくだらない雑談を交わす。
「マキナ的に仇の剣はどうじゃ?」
「どうじゃと言われても僕の印象は変わらないよ。彼らとて強くなって幹部くらいにはなってくれそう……だけど、上澄みにはこないし、僕たちと肩を並べることはないって感じ」
「まぁ、そうなるか」
マキナの言葉にレミヤが頷く。彼の評価は勇者パーティーが不快感などを抜きにして持っている率直な感想である。
「まぁ、別に無駄とはならんじゃろうなぁ」
「うん……うわぁ、酷い。ボッコボコ」
二人が雑談を繰り返している間にも仇の剣の面々は魔力循環をすませ、木の棒を持っただけのグレイス相手に全員が完全武装で挑み、普通に相手にならずに叩きのめされてく。
「う、嘘だっろ……こんなにも」
叩きのめされる仇の剣の面々の足が止まり始める。
「僕と君たちとじゃここまで違うよ。ほら、早く来なよ……少しでも学べ」
「良いわよ、やってやるわよ」
既にあきらめムードが漂う中でもルリアは前に出てその手にある刀を強く握る。
「簡易世界結界───抜刀」
抜刀の構えを取ったルリアが地を蹴り、駆ける。
「隔離と拡張を無視し、ただ己の一撃を当てるため、時間と広ささえも削って必中効果のみを用いる抜刀術。面白いけど、必殺にはなり得ないから気をつけた方が良い」
相手に回避も、防御もさせない必中の抜刀術。
それを歯で噛んで受けきったグレイスは器用なことに腹話術の要領で口に刀を含みながら言葉を話す。
「ほら!ルリア!そこで蹴りだよ!蹴り!それがあれば絶対に距離を詰められるんだから!抜刀術だけに頼るのではなく他も活用しなきゃ!」
「ほれ!お主ら!何をしておるのじゃ!諦めずにどんどん行くのじゃ!」
そんな傍らでそれを観戦しているマキナとレミヤはアドバイスという名のヤジを飛ばしていく。
「端から勝とうとしても無駄だ。ここで学びたての子供のようにすべてを学び、吸収し、成長しろ」
「えぇ……い!過去の驕った私は死ね!私は強くなる!」
「……ぁぁあ!クソがぁ!いくぞお前らァ!」
「せめて魔法を当てるくらいはしてみせるわ!天才魔道士の名にかけて!」
「回復はおまかせください!」
仇の剣を相手に絶妙な力加減で模擬戦を繰り広げるグレイス。
それをただただ観戦しているだけの残りの勇者パーティーが三名……グレイスだけが仕事していた。
「マキナや、マキナ」
そんな中でこんな時であっても酒瓶を抱えているマキナをレミヤは呼ぶ。
「ん?」
「わしも酒がほしいのじゃが、出しては貰えぬか?」
そんな彼女が口にするのはマキナに酒を控えるよう告げる提言ではなく、自身の酒がほしいという欲望であった。
「ん、良いよー。一緒に飲も」
「……」
「あっ、レーテムもいる?それじゃあ三人分」
激しくグレイスと仇の剣がやり合う傍ら、己たちを守る結界の中で酒を飲み交わす三人は仇の剣の駄目なところに対してどんどんヤジを飛ばしていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます