酒盛り

 ルリアとビルヘン。二人の訓練の面倒を見ると言ったはものの……ぶっちゃけった話、マキナは結構暇であった。

 彼女たち二人も十分に天才肌であり、一から十まで教える必要のない存在と言えるだろう。


「ぷはぁ」


 そんな彼は二人の前で躊躇なく魔法で生み出した椅子の上でこれまた魔法で作り出したビールを流し込んでいた。


「……」


「……」


「んっごく、っごく」

 

 喉を鳴らし、酒を胃に流してアルコールをぶん回すマキナの前でルリアとビルヘンの二人がなんとも微妙な感情を抱きながら座禅を組んで己の体内にある魔力を回す。

 彼女たちが今やっているのは魔法を学び始めるものがまず初めに行う基礎、魔力循環。体内の魔力を循環させて魔力の操作法を学ぶものだ。


「あー!!!こんなことやって何になるのさ!?」

 

 学び始めの初心者が学ぶようなことを自分の前で酒盛りをしているマキナにさせられているルリアがとうとう不満をあらわにして立ち上がる。


「あれぇ?魔力循環は基礎中の基礎……大事も大事なんだけどわからない?」


「情けないことかもしれないけど、はっきり言ってわからないわ。こんなのすぐに出来たわ。わざわざまたやる必要がわからないわ」


 マキナの不思議そうな視線に対してルリアがはっきりと答える。


「……んじゃー、仕方ないかぁ。ちょっと手伝ってあげるよ」


 既にだいぶアルコールを回しているせいでふらふらとした足取りのマキナがルリアとビルヘンの前に立つ。


「ほら、ふたりとも……僕の手を取って」

 

「え?ま、まぁ……」


「わ、わかりました……」

 

 ルリアとビルヘンの二人は己の前に差し出されたマキナの手を取る。


「これが魔力循環だよ?」


 手と手がふれあい、三人の間で魔力のパスが出来上がる。

 マキナは強引に己の魔力を二人へと流し込んでそのまま二人の魔力も掌握。強引に体の中をぶん回していく。


「んっ、なぁッ!?」


「……んんっ!」


 マキナの行う魔力循環。

 それはただ体内を回すだけではない。魔力の圧縮、膨張、変形、ありとあらゆる術で工夫し、その姿を変えさせる。

 魔力の濃淡を変えることでもう体内に龍を作り出してしまう。


「魔力循環はただ魔力を回すだけではない。己の魔力を掌握し、自由自在に操作することも含めての魔力循環だよ。魔法は魔力ありきだ。魔力を自由自在に使えないことには魔法だって自由に使えはしない」


「「……っ」」


 実際に触れて、己の体の中でマキナの力を見た二人は息を呑む。


「足りないよ、基礎が」

 

 マキナが言いたいことはそれだけである。


「なーんか、魔力循環を軽視する人が多いんだよなぁ。なんでだろう。魔力循環は大事なんだよ?何を行うにしても魔力循環ありき。魔力をどこまで掌握できるか、どこまでその姿を変えられるかで決まるのに……魔力操作を極める上で魔力循環を超えるものはないんだよ……ということで理解出来た?」


「……っ。えぇ、そうね」


 マキナの言葉にルリアが素直に頷く。


「私が間違っていたわ、ごめんなさい……」


「別に謝ることではないよ。知っていけばいいだ……っ」


 マキナは言葉の途中で口を止めて顔を青白くする。


「ん?どうし」


「うっぷ……オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」

 

 そして、そのままマキナは胃の中のものを逆流させて盛大にぶちまけた。


「キャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


「わあぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!?」


 いきなり嘔吐するマキナにルリアとビルヘンの二人は大きく悲鳴を上げる。


「うぇっぷ……きもちわるぅ……」


 マキナは悪酔いするタイプである。マキナの気分は急落直下、現在のマキナの心情は気持ち悪いの一言である。


「ちょ、ちょ、ちょ……っ!?とりあえず、お水!お水飲んで!」


 そんなマキナに対してルリアが水魔法で飲み水を作り出して差し出す。


「ありがとうぅ……」

 

 弱々しい声でお礼を口にするマキナはルリアが作った飲み水の水球へと直接口をつけて水をちびちびと飲み始める。


「うぅ……飲みすぎた。掃除掃除」

 

 ここは世界結界の内側。

 数多の魔法の極地、その到達点として複雑に構成される世界結界の中ではマキナが法であり、マキナの思いのままに世界を変えられる。

 故にマキナのゲボを自分で片付けるのも容易である。


「あぁ……ということで片付けはやり終えたから、後はよろしく。魔力循環のコツとか、概要はさっきのでなんとなく理解出来ただろうから……君たちに任せるよ。一から十まで教えなくとも大丈夫でしょう?」

 

「えぇ、既にもう大切なものを教えてもらったから良いわ!そんなことよりあんたはゆっくりしてなさい」


「その通りです……本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫、大丈夫……割とこれが常だから。問題ないよ……うん」

 

 心配そうにしているルミアとビルヘンの視線を受けながらよろよろとした足取りでマキナは二人から離れて元の席へと戻ってくる。


「ふぅー……っごく、っごく」


「って、まだ飲むのかよ!?」

 

 そして、再び酒を飲みだしたマキナに対してルミアがツッコミを入れるのだった。

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