ルリアとビルヘン

「さてはて、ということで君たちの教育係となったマキナだよ。よろしくね?」

 

 結界の外でどうにかこじ開けようとするグレイスたちを魔法で蹴散らしながら自分の前にいる二人へと自己紹介の言葉を口にする。


「そ、そんなことより良いんですか?あれ……放置していて」


「良いの、良いの、日常だから」


「……えぇ?どんな日常ですか?」


「勇者パーティーの日常だよ」

 

 女の子と関わりたいマキナと彼を縛りたい勇者パーティーメンバーとの争いはちょいちょい起こっている。

 これくらい日常だと笑い飛ばせるくらいには起きていた。


「そんなことより自己紹介からお願い出来るかな?」


「……えっ。あっ、はい。私はリリス教より派遣されました。聖女の二つ名を抱くビルヘン・レリギーオンと申します。以後お見知りおきを」

 

 マキナの言葉に率先して言葉を交わしていた少女、ビルヘンが己の名を告げる。


「ルリア。フリア帝国から来たルリア・アンベシルよ」

 

 そして、マキナからは拗ねたようにそっぽ向いていた少女、ルリアがビルヘンに続く形で己の名前を告げる。


「おぉ……!君がゴスペルの……ッ!」

 

 それに対してマキナが歓喜の声を上げる。

 彼女こそが英雄ゴスペルの娘なのだ。


「っ!?と、父さんを知っているの!?」


「もちろん。僕の憧れの人だよ」


「……そ、そうなの……って!勘違いしないことね!父さんこそが世界の英雄であり、貴方たちなんて所詮は紛い物なんだから!」


 いくら英雄の娘とはいえ、現役で世界のために戦っている者に告げるものではないとんでもない暴言。



「わかる」

 

 

 それに対して何故か一瞬にして真顔になったマキナがの言葉に頷く。


「英雄。英雄。英雄……ゴスペルこそが英湯であり、僕は未だにその域にいない。僕はまだゴスペルのように自由じゃない……女をちぎっては投げを繰り返し、豪遊の限りで有り金を溶かせていない……」


「それは真似しなくて良いのよ?娘視点から見ても最悪のところだがら」

 

 とんでもないところを見習おうとしているマキナに対して慌ててツッコミを入れる。


「……でも、僕は色々な人を助けるためのお金とかもいるしぃ。無一文になるのはむむぅ。あぁ、英雄になりたい」

 

 だが、そんな彼女の言葉はマキナへと届いていない様子であった。


「……なんか、変な子ですね」


「え、えぇ……そうね」

 

 想像以上に話の通じない、常識がこちらとは一歩食い違っていそうなマキナにルリアとビルヘンが率直な感想を漏らす。

 だが、それだけ常識外れた存在であるからこそ同じくぶっ飛んでいるヤンデレ娘であるグレイスたちと相対出来ているとも言える。


「っとと。まぁ、僕の英雄願望はどうでも良いんだよ。それよりも教育……君たちを一つの戦力とするために頑張らないとね。せめて魔王軍の幹部に勝てるようになってもらわないと」

 

 魔王軍の持つ戦力はとんでもない。

 ただ勇者パーティーの持つ個人の力がとんでもないからこそ何とかなっているだけであり、彼らがいなければ今にも人類が滅びるような戦力している。

 

 未だ姿を見せぬ魔王に個人で人類社会を滅ぼせる魔王軍の四天王、それに準ずる能力を持つ魔王軍の幹部が総勢十二名。

 そして、その下にいる雑兵までもがとんでもない実力者である。改めて考えるとバグった戦力を持つのが魔王軍であり、それに対してただ四人で抑止力足り得ている勇者パーティーが本当にイレギュラーなのだ。


「私だって英雄の娘なのよ。幹部どころか魔王にだって届かせてみせるわ!」


「それは無理かもよ?ゴスペルだって幹部倒せないもの」


 ルリアの言葉をマキナが冷静に疑問をぶつける。


「……はぁ?父さんはそんなに弱くないわ!」

 

 それにルリアが一切の躊躇なく噛みついていく。


「いや、間違いないよ。僕がまだ5歳くらいの時に彼と直接戦って勝っているし、ゴスペルが相打ちした龍と共にいた番を倒したのだって僕だ。英雄という格ならともかく純粋な力であれば僕たちの方がはるかに高いよ」


「そんなはずない!過小評価よ!」


「でもゴスペル世界結界使えないし」


「せ、世界結界だなんて!?あんなもの生命に使えるものじゃないわ!」


「グレイス以外使えるし、グレイスだって聖剣一振りで破壊するよ?」


「「……」」

 

 さらりと告げられるとんでもない宣言にルリアとビルヘンが驚愕する。


「英雄とは実力でなくその心の在り方で、周りに与える影響で決まるものだよ。父親関連で何か嫌なことがあったのかもしれないけど、だからと言って気にすることはないよ。ゴスペルこそが英雄である」

 

 複雑な表情を浮かべているルリアへと一切の疑問のない確固たる意思と憧れを込めてマキナが告げる。


「人類最強である僕が言っているんだ。間違えない」


 何の予備動作もなしに世界結界を発動するマキナがそう断言するのだ。


「ということで訓練を始めていようか。ここは僕の世界。何でもできる世界故に……どんな訓練でもできるよ?」

 

 そして、世界結界の中で二人へと訓練を始めると宣言するのだった。


 

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