仇が剣

「ふんふんふーん」

 

 英雄であるゴスペルが娘。

 それが仇が剣の一人にいると聞いたマキナは目に見えて機嫌良くなり。


「「「……」」」

 

 それを前とするグレイスたちは目に見えて機嫌が悪くなっていた。

 

「(お主ぃ!何を余計なことを口走ったのだ!)」


「(す、すまぬぅ!まさかここまでマキナくんが食いつくとは思わなかったんだ)」


「(どうするんだよ、この空気。死んでいるぞ)」


「(愛がとても)」


「(まぁ、それは大丈夫だろう。マキナくんは以前、あの三人の地雷を盛大に踏み抜いて敵対。ちゃんと彼が勝利し、監禁しようとする三人をしっかりと反省させたからな。すべてを万能にこなせるあの子は勇者パーティーの中でもちょっぴり強いのだ)」


「(三対一で勝利はちょっとなのか……?)」


「(彼本人がちょっとであると……単純に相性が良いだけなのだとか)」

 

「(なるほど……ではあるが、だからと言ってこのままというわけにはいかないのではないか?殺されるぞ、ゴスペルの娘)」


「(……)」

 

「(フリードルぅ!)」


 そして、そんな勇者パーティーの前に座るフリードルたち国王、皇帝、教皇たちがひそひそと冷や汗を垂らしながら小声で会談を行う。

 

 コンコン


 だが、その会談の結果が出てくるよりも前に予め呼んであった仇が剣の面々が到着してしまう。


「どうぞー」

 

 そして、フリードルたちが答えを出すよりも前にマキナが勝手に入室を許可してしまう。

 時間の猶予は今、消滅した。


「失礼します」

 

 マキナの言葉を受けてゾロゾロと仇が剣の面々が部屋の中へと入ってくる。


「うーん、弱いね。率直に言って」


「そうじゃな。本当に……ここまでなのかじゃ?そこらの羽虫と何も変わらぬじゃろうよ。これを鍛えて意味はあるのじゃ?」


「……」


 そして、仇が剣の面々を見ると同時にグレイスたちは悪意を隠そうともせずに侮蔑的な言葉を吐き捨てる。


「そんな酷くはないでしょ?でも、羽虫と変わらないは羽虫に失礼だよ」


 それに続いてマキナは笑顔で、好意を持ってとんでもない毒を吐く。


「……えぇ?」


「……正気じゃて?」


「……」


 マキナの言葉にボロクソに貶してやろうと考えていたグレイスたちが思わず引いてしまう。

 笑顔でそんなことを言われてしまえばメンタルブレイクは避けられないだろう。


「わ、私たちを舐めているの……?」


 仇の剣の一人が震えながら声を上げる。

 彼ら、彼女らとて天才として持ち上げられて育ってきた者たちである。当然、プレイドというものが存在する。


「ん?そんなことはないよ?ただの事実を言っているまで」


「「「……ッ」」」

 

 どこまでも笑顔で、挑発しているとしか思えない態度に仇の剣の面々が息を呑んで体を震わせ……少しばかりの魔力を漏らして威圧し始める。

 元より機嫌が悪いグレイスたちもそれに応戦するかのように不穏な空気を漂わせ始める。

 仇の剣の面々とグレイスたちの睨み合い。


「「「(はわわ)」」」

 

 もうフリードルたちの胃は限界である。

 

「現実を知るのも大事だよ?」


 そんな中で、マキナは笑顔のまま魔力を開放。

 すべてを押しのけて膨れ上がる魔力が仇の剣の面々へとのしかかり、重圧を与える。


「僕たちと君たちの間にあるのは壁一つとか言う話じゃない」

 

 魔法はまだ何も使っていない。

 ただ、己の身より解放する魔力だけで、魔力を込めた言葉だけで、相手の心を縛り付けていく。


「知りなよ、上を」

 

 マキナは手を叩く。

 それだけで魔法が発動し、仇の剣面々からすべての行動能力を奪う。

 彼ら、彼女らは体に力を込めることができず、そのまま地面へと倒れる。再び立ち上がることも声を上げることも出来ない。


「うわぁ……えっぐい」


「わしらより暴れているのじゃ。完全にわしらが蚊帳の外に置かれているんじゃが?」


「……」

 

 それを端から見ているグレイスたちが少し引いたような声を上げる。


「でも、安心して。僕が教育係として見せてあげるから……ということで国王」

 

 そんなグレイスたちを無視するマキナは仇の剣の面々から視線をフリードルの方へと移す。


「中庭借りて良い?」


「う、う、う、うむ。許可しよう」


「ありがと。それじゃあ……ほい」

 

 マキナは再び手を叩いて魔法を発動させる。

 勇者パーティーだけでなく仇の剣の面々も対象として発動したマキナの魔法が全員を部屋から中庭の方へと転移させる。


「改めて思うが……マキナの転移魔法は厄介じゃ」


「おかげで捕まえられないしな」


「僕を捕まえてどうする気なの?ということで合計八人いるし、一人二人面倒みようね!」


 一方的にどう面倒見るかを決めたマキナは床に倒れている八人のうち女二人を摘みとって走り始める。


「僕この二人見るから!後はよろしく!」


 そして、一方的にグレイスたちへの宣言を一言。


「あっ!?ちょっ!」


「待つのじゃ!」


「……!」


「嫌でぇーす!ゴスペルの娘は僕のものだから!」


「「「……ッ!!!」」」


「君たちはそこで別の子を見ててよ……ほい!」

 

 グレイスたちから少し離れたマキナは強固な結界を展開。

 そうした後にマキナは仇の剣の面々にかけていた魔法を解くのだった。

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