英雄であること
世界中から集めたという精鋭集団。
男五名、女三名の計八名である……そんな彼らの教育係をやって欲しいというのが勇者パーティーへのお願いである。
「僕は嫌だよ」
その申し出をグレイスはにべもなく断る。
「そもそも私たちは天才タイプだから凡夫に何かを教えても大した意味はないよ。頼む相手を間違えている」
「そうじゃな。確かに無意味じゃ。考えるまでもなく却下じゃ。そもそもとしてわしらは大した努力などしておらぬのじゃ。適当に生きているだけで適当に最強になれたような連中がわしらじゃ。教えるのは不適じゃ」
「……」
そして、それに続いてレミヤも反対の声を上げ、レーテムも頷いて肯定を示す。
「それじゃあ、僕一人でやるよ」
そんな三人に対してマキナは前向きな姿勢を見せるどころか三人まとめて面倒を見るなどという無茶苦茶なことを言い始める。
だが、それを出来るのがマキナという男である。
「僕は出来るよ?僕はどんな人間でも強く出来る……全部見えるし」
「待って」
本気であるということが明瞭に理解出来るグレイスは慌てて止めに入る。
「本気で言っているの?こちらへのメリットはほぼなきに等しいよ。それにどれだけやろうとも僕たちのレベルに他が追い付くことはない」
「だって暇だもん、最近。ここ最近の僕とかジュース飲んでダラダラしているか酒を飲んで吐いているのかの二択しかないよ?このままじゃ駄目だと思うんだよね」
完璧な自己評価である。
マキナは基本的にダメ人間であり、それを英雄としての功績でおつりを得ている人間である。
ここでマキナが暇人として働かなくなってしまえばもうダメ人間へと一直線である。
「僕は英雄。世界に希望と勇気を届け、一目僕を見るだけですべての者たちの心を塗り替えてしまうような英雄が僕なんだ」
マキナは少しばかり目を瞑って過去を思いながら告げる。
誰よりもフレンドリーで誰よりも可愛い見た目をしながらも、最強であるマキナはすべての者たちが好意的に思っており、ただ街を歩いているだけでも多くの人から声を掛けられるし、ただ姿を見せるだけでも多くの人に活気を与える。
それがマキナであり、誰よりも英雄であろうとするマキナであるのだ。
「……マキナは、何故そこまで英雄であることに拘るんだい?既に英雄であろう。マキナは」
勇者パーティーであることは拒否しておきながら英雄ではあろうとする謎のちぐはぐさに対してグレイスが
「英雄であることが僕の全てだからね」
だが、それに対するマキナの回答は何処かズレていた。
しかし、何でもないことかのように告げられたその一言には誰よりも英雄であることに執着するマキナの歪な拘りが見え隠れてしていた。
「僕は英雄であり、すべての者たちの味方だ。当然、目の前でお願いされたことにも断らない」
マキナはグレイスたちの方からフリードルたちの方へと視線を向けて口を開く。
「だから任せてくれ」
「……非常に力強い言葉だ。本当にありがたい」
マキナの言葉にグレイスが深々と頭を下げる。
「待って、僕もやるよ。マキナ一人に任せられないし」
「同意じゃ!わしも同行するのじゃ!よく考えてみれば他人に教えるのも爆速で習得できるのじゃ!」
「……」
そして、マキナの申し出をフリードルが頷いて話がまとまり出していた中で他の三人も参加を表明する。
「それはありがたい。それとマキナくん。君の英雄願望は魔王が現れる前に活躍し、惜しくも龍との戦いで相打ちした英雄、ゴスペルが関わっているのかな?」
「んっ?あぁ、そうだよ」
マキナはフリードルの言葉に頷く。
人の原点。英雄であることに拘るマキナの原点に最も近いのがかつては世界最高の英雄と称された男であるゴスペルである。
「仇の剣のメンバーの一人にゴスペルの娘さんがいる、良かったら話でも聞くと良い」
さりげない一言としてフリードルが告げた一言。
「なんだってッ!?!?!?」
その一言にマキナは強烈に反応を示し、グレイスたちも聞いたことのないほどの声量を見せるのだった。
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