対魔王軍戦略

 暇に暇を抱え、勇者パーティーの四人全員でダラダラと家の中で怠惰を貪っていた彼らは突如して国王から王宮に来るように言われ、嫌々ながらも王宮へとやってきていた。


「よくぞきてくれた」


 王宮へと登城したマキナたちへとルースト王国ブルペー朝四代目である国王フリードル・ブルペーが頭を下げる。


「僕たちは自由奔放では在るけど、制御できないじゃじゃ馬ではないからね。当然、頼まれれば参城するよ」


 それに対して返答のことを上げるのはマキナである。


「……その割に君の背後の面々は今にもこちらへと飛びかかってきそうな雰囲気だけど」

 

 マキナの言葉に対して国王は苦笑する。

 家で平和な時間をと共に送っていたグレイスたちは、その至福の時間を邪魔されたために大層不機嫌になっていた。


「それでそちらの方々は何用で?随分と豪華なメンバーが集まっていますが」

 

 そんなグレイスたちに代わって穏やかな様子のマキナが受け答えを行っていく。


「極秘会議のさなかでしてな……自己紹介はしたほうが……?」


「いや、大丈夫だよ。流石に皆さんのことはご存知だからね。無駄は省いていこう……うちのパーティーメンバー機嫌悪そうだし」


 この場にいるのは人類の希望たる勇者パーティー。

 ルースト王国の国王たるフリードル・ブルペー。

 世界最大の領土を持つオレワ王国の国王、レレト・アルバラ。

 急速に勢力を拡大する軍事大国たるフライ帝国の皇帝、ルルージュ・プロクソン。

 貿易による利益を享受する海洋国家の連合王国の国王、カレリア・オルブ。

 世界宗教であるリリス教の頂点に立つ教祖、アレイスター。


 計九名。

 おそらくこの場にいる者だけで世界情勢を自由に操作できるであろうメンバーが勢ぞろいしていた。


「こっちもいらないよね?自己紹介」


「うむ。問題ない」

 

 この世界において当然のことではあるが、国という存在は大きい。

 兵士の数や優れた教育によって生み出される精鋭に人々の生活を支える様々な物品の製造販売貿易。

 国の持つ力は大きい。


 だが、魔法在るこの世界では時として個人の力が国を超えることもある。

 東洋の高原より来たる馬に乗りて単騎で現れた鬼神然り、突如として現れて世界を絶望の渦に叩き込んだ快楽殺人者然り、貿易を困難としたただ一人の海賊然り。

 個人が国を超えた力を持つことがあり……勇者パーティーの四人はそれぞれがそれなのだ。

 

 故にどれだけ大きな組織の頂点に立つ者であっても勇者パーティーには上から出れず、恐怖するほか無いのだ。


『会談は余がやった方が良いであろうな。最も逆鱗を知っている。交渉は余に任せてくれ。ただ、何か個人で話したいことがあるのならマキナを通すと良い。あの子が一番謎な行動を取る狂人だが、最も他に従順だ。己よりも他を優先する子であり、勇者パーティーの中で最も強く、パーティー内の影響力も大きい」


 レレトを始めとする面々はマキナたちがここに来るよりも前の作戦会議のフリードルの言葉に従って口を閉ざして交渉をフリードルに任せる。

 

「じゃあ、早速本題に入ってよ。現状、足踏みしているような段階にはないだろう?」


「そうであるな。配慮感謝する。でさ、早速本題に……」


 故に言葉を交わすのはマキナとフリードルのただ二人である。


「まず、我々の基本戦略から。基本的には防御を重視することとなる。相手に物資を渡さぬようにしながら徐々に敵の国力を削っていく」


「んで、後は個による打開か」


「えぇ、そのように考えています。我らには幸いにもマキナくんたちがいるからな」

 

「一まずはそれが良いだろうね。相手の状況にもよるが、現状だとそれが良いだろうね」


「理解のほど感謝する。それで、だ。我々は本戦略を実施する上での懸念点、問題に対しての憂慮を抱いている」


「数だね。流石に四人じゃすくない」


「左様」

 

 マキナの言葉にフリードルが頷く。


「故に我々は個の向上を企んでいる……遅くなってすまない。ここからが本題だ。我々がマキナくんたちに頼むのは仇の剣。何故か厨ニ臭い名称の最近結成された組織に所属する世界各国から集めた精鋭たちの教導である。どうか、お願いしたい」


 フリードル並び人類社会からの頼みに対して。

 

「おぉー」


「「「……ッ」」」

 

 マキナは無表情を貫き、他の三人は表情をこれ以上無いほどに歪めるのだった。

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