第二章
ただの平和な日常
突如として攻勢を再開した魔王軍。
そんな彼らではあったのだが、その第一の作戦であったグレイス襲撃に失敗したためか。
第二王女誘拐からグレイスに世界結界をぶつける一連の流れに至るまでの作戦の後は特に大きく動くことはなかった。
散発的な小規模な争いは起きているそうだが、今のところ人類側は態勢を立て直している最中。
しばらくの間、マキナたちは暇であろう。
ここで勇者パーティーを魔王軍へとぶつける……藪をつついて蛇を出すような真似は誰もしようとしないだろう。
「うーぬ……喉乾いた」
ということで、暇を謳歌するマキナたちはどこかに出掛けるでもなく四人で暮らす用として買った王都の屋敷でくつろいでいた。
マキナたちはリビングに置いてある大きなソファの上でもみくちゃになった状況で横になっている。
「そう言うと思ってマキナの好きなリンゴジュースをもってきてあげたよ。僕に感謝してくれ」
乾いた喉を潤すために席を立とうとするマキナにグレイスが一つの瓶を差し出す。
「あっ!ありがとう」
マキナが好きな飲み物はリンゴジュースとオレンジジュースとぶどうジュースの三つである。
そんな三種の神器の中で最も飲みたいような気分であったリンゴジュースを選んで己に渡してくれたグレイスにお礼の言葉をグレイスは告げる。
「……っごく、っごく」
差し出された飲み物に口をつけ、グレイスたち三人の視線を一心に集めながら、マキナは喉を鼓動させてリンゴジュースを運んでいく。
「ぷはぁ」
一瞬にして飲み切ってしまったマキナはリンゴジュースの入っていた瓶を魔法で消し去り、体から再び力を抜く。
「……って、あ。そういえば僕ってば買い物にいかなきゃいけないじゃん」
だが、マキナは再びすぐに起き上がって狼狽とした表情を浮かべながら告げる。
「買い物って新しい財布のことじゃのう?」
それに対してレミヤが己の手に財布を掲げながらマキナの方へと声をかける。
「ん?何それ……財布?つい最近財布を落とした僕への嫌味?」
財布を見せてくるレミヤに対してマキナはジト目を向ける。
彼はつい最近、南方の国に赴いた際、食事に困っていた避難民たちを助けるべく海に潜って全長30mにもなる巨大なタコを釣りあげて渡したのだが……普通に何も感えずに海へと入ったからだろう。
何の準備もなしに海へと飛び込んでしまったマキナはあまりにも自明の理としてポケットに浅くいれていた財布を最初から不法投棄が目的だったのかと疑うほどに爆速で海へと流したのだ。
マキナの持っていた安物の財布は、多くの白金貨が詰まっていたその財布はいつの日か、後世の時代で宝物として拾われることとなるに違いない。
「わしはそんな性格が悪くないのじゃ」
自業自得。
これ以上ないほどにそれが似合うことはない姿を見せつけ、なおかつ落としたというマイルドな表現を使うマキナの腕を取ってその手のひらにレミヤは財布を乗せてあげる。
「それは今、多くの者から人気を集めている新興ブランド店出した専用モデルなのじゃ。良いじゃろう?」
「……なるほど。高い財布か。やはり肌触りが良くてしっかりとしているからかな?……うん、良いね。良きだよ」
マキナはしばらくのうちに財布を眺めて気に入ったようか、満足げに頷く。
「それで?これは僕にくれるの?」
財布をいそいそと自分の懐にしまいながらマキナはレミヤへと尋ねる。
ここで断られてもマキナは財布をレミヤに返すことは断固としてないだろう。
「もちろんじゃ。マキナが気に入るであろうものを買ってきたのじゃ。マキナが気に入るであろうものを探すのは苦労したのじゃぞ?ということで、これでマキナは出かける理由がなくなったのぅ。マキナもここで私とゆっくりとしているのじゃ」
「まぁ、そうではあるけど……やっぱ買い食いとかは正義じゃん?財布を買いつつ外で買い食いもしたかったよねっていうはな」
「……マキナ」
「ん?」
普段あまりしゃべることのないレーテムの言葉に己の言葉を切って疑問の声を上げる。
「……プリン作ったよ」
「わーい!」
耳元で囁くレーテムの言葉にマキナは歓喜の声をあげて立ち上がってマキナお手製の魔道具である冷蔵庫にまで一直線で向かっていく。
「……マキナぁ」
「……っつ、冷蔵庫に何か変の入っていないじゃろうな?」
「……」
グレイスたちの三人は嬉々とした表情で冷蔵庫を開くマキナに対するそれぞれの、根本的には何も変わらぬ大きな恋慕の感情を傍らとして彼のことを三人が静かに眺めるのだった。
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『ゲームで死ぬ悪役貴族に転生したのでまずは自身の死亡フラグを折るために主人公をTS薬でシャブ漬けにしてメス堕ちさせたいと思います』
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