世界結界

「……これは、面倒臭そう」

 

 グレイスに呼び出されたマキナがやってきた場。

 そこには淡く虹色に光る幕が降りており、それが他の全ての侵入を防ぐ結界として機能していた。


「こいつは世界結界じゃな。これまた面倒なものを貼ってくれたものじゃ」


 音もなくマキナの隣に立ったレミヤが口を開く。


「……」

 

 そして、そんな二人の背後には当初いなかったレーテムがさも当然のような態度で立っていた。


「まあ、上書きすればいいでしょ」

 

 マキナは軽い口調で告げると共に両手を重ね合わせる。


「世界結界───天磐岩戸」

 

 そして、魔法の極致の一つである世界結界を目の前に広がる世界結界を塗りつぶすようにして展開する。

 半径100メートル範囲。

 広大に展開された世界結界の中心に立つマキナとレミヤ、レーテム。


「……馬鹿、な」


 そして、マキナの魔法によって上書きされた世界結界の中にいた一人の魔族は驚愕に目を見張り、グレイスは軽い様子でマキナへと手を振っている。


「固く閉ざせ」 

 

 そんな中でマキナは世界結界を完全に発動させる。

 外界と隔絶し、新しい世界を作り上げていく。空は赤く染まり、冷たく硬い岩の地面は赤い水が張っている。

 マキナの世界、マキナが作り出した世界がここだ。


「それで?何があったの?」 

 

 恐らくは敵であろう魔族からありとあらゆる自由を奪ったマキナはグレイスの方に近づいていく。


「ん?ちょっと面倒なことになってね。厄介なことにあの魔族が体内に小さな子供たちを格納した状態で世界結界を発動。薄氷の上での発動だったこともあって僕が聖剣で強引に世界結界を打ち破ったらあの魔族ごとお腹の子どもたちも全部消えてなくなっちゃいそうでね」


「なぁーるほどね。理解したよ……ほい」


 魔族の方へと視線を送ったマキナは無言のままに視線を送ってその中に眠らされていた子供たちを開放する。


「それで?じゃあ、もうあの魔族は殺しちゃって良いの?」

 

 無事に子供たちを解放したマキナは、中に己ただ一人となった魔族へと視線を向けて疑問の声を上げる。


「良いよ。思いっきりやっちゃって」


「ほい」

 

 ここはマキナの世界である。

 マキナがこそが理であり、マキナこそが全てなのだ。

 

「……ぁ」


 ただマキナが願うだけ。

 それだけで魔族は消える。ありとあらゆる準備を望み、わざわざ勇者パーティーを散り散りにさせ、グレイスが容易に世界結界を破れぬような状態としたうえで襲い掛かった魔族は、何も為すことなくマキナの手によってそのすべてを破られるのだった。


「はい、これで終わり。ちなみにみんなが担当していた戦線はどんな感じ?僕が担当した南はとりあえず全部解放したよ」


「わしの方も終わったところじゃ。これから敵がどこから来たのかを調べて戦おうと思ったところで


「……」

 

 レミヤは詳細に答え、レーテムは無言で頷くことでマキナの疑問の答えとする。


「グレイスは?」


「さぁ?僕は早々に世界結界の中に取り込まれてしまったからね。それでも他の兵士たちには多くの祝福を与えたし、周りも精鋭ぞろい。そもそも敵は僕を殺すことだけに焦点を当てていたようだし、もう終わっているんじゃない?」


「おーん」

 

 グレイスの言葉を聞いたマキナは視線を少しだけ持ちあげて魔法で周りを探知していく。


「うん、終わってそう。ちゃんと戦って勝ったみたい」

 

 今にも死にかけていそうな負傷者に回復魔法を遠距離からかけてあげながらマキナは頷く。


「それなら良かった」


「にしてもリーダーであるグレイスが一番時間かかってどうするのじゃ?これでリーダーが本当に務まるのかねぇ?」

 

 安心した様子のグレイスに対してレミヤが嫌味ったらしく告げる。


「しょうがないじゃないだろう?敵は僕を明確にメタってきていたし、戦力も僕に集中していたし」


「それでも、世界結界を使えるわしらであれば別であったかもしれないじゃろう?」


「レミヤの時は虫かな?虫の大軍相手にどう立ち向かうのかみものだね」

 

 煽りよるレミヤに対してマキナは敵をワキワキさせながら彼女の耳元で囁く……言葉の次は妙にうまい虫の鳴きまねである。


「……っ、マキナの声であっても虫の鳴きまねはきついのぅ。にしてもうますぎじゃて」


「僕は万能の天才なのでね!」

 

 レミヤのあきれ果てたような声にマキナはドヤ顔で返し、今度は鳥や哺乳類などの様々な生物の

 蝙蝠の超音波の物まねなんて誰もわからないだろう。


「なんか勝手に遊んでいるマキナは置いておいて……早く子供たちを親の元に引き渡して被害を少しでも緩和するために動こうかね」

 

 グレイスたちはなんやかんや言って勇者パーティーとして相応しい精神性を備える人類の味方なのだ。

 少しでも被害を減らすためにグレイスたちは行動するのだ。


「置いておいちゃダメじゃろ。マキナに世界結界を解いてもらわないとわしらが外に出れないじゃろうて」


「いや、勇者としての意地を見せたい。やれ、聖剣」

 

 レミヤの言葉を否定するグレイスはその手にある聖剣を振り下ろし、マキナの世界結界を崩壊。完全に壊してみせる。


「あふんっ!?」


 世界結界を破られたマキナは信じられないと言ったような視線をグレイスの方へと向けるのだった。

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