勇者たちの乱舞②

 レミヤの世界結界の中。

 マキナだけが永遠と魔力も生命力もガンガン吸われていっている中でもマキナはグレイスたちを相手に押され気味となりながらも向かい合って戦えていた。


「……」

 

 マキナは爆速で世界結界内を駆け巡りながら魔法を散りばめ、グレイスとレミヤの二人から逃亡する。


「そんなに逃げていても勝てないよ?」

 

 このままやっていても時間がかかるだけだと判断したグレイスがここでギアを更に一段階上げる。

 戦いの中で汗をかくマキナの芳醇なフェロモンを感じ続ける今のグレイスはその本能が刺激され続けたことで、どこまでも研ぎ澄まされている。


「……ッ」

 

 地を蹴り、音速の域にまで達したグレイスはマキナへの距離を一気に詰めてマキナの足を狙って聖剣を振るう。


「……もう!」

 

 そんなグレイスの一撃を切断されないくらいの怪我程度で済ませてなんとか避けたマキナは魔法で若干無理しながら速度を上げて音速へと引き上げてグレイスへと向かい合う。


「そこまで行ったらちょっとお手上げじゃ」

 

 とんでもない速度でぶつかり合う二人に若干呆れながらレミヤは足を止め、その代わりとしてマキナから魔力並びに生命力を引き上げることに注力し始める。


「……んんっ、これが、マキナの……」

 

 マキナの魔力と生命力に性的興奮を覚えている間にもマキナとグレイスの戦いは激しさを増していく。

 マキナが幾千もの魔法をぶつけ、それをグレイスが幾千も剣筋でかき消していく。

 超高速でレミヤの世界の中で美しい幾何学模様を作り出していた。


「……ッ」

 

 さしものマキアとてここまでグレイスに有利な状況が揃っている中で彼女の魔の手から逃れることは難しい。

 徐々に


「あの時のがここで……ッ!」

 

 それでもマキナは戦えていたのだ。

 しかし、長き応酬の果てに、疲れ故かマキナの速度がガクンと下がり、その身がグレイスのすぐ目の前へと晒される。


「がふっ!?」

 

 グレイスの聖剣は強引に自分の骨さえも折って無理やり回避することで難を逃れたが、追撃。

 己の足へと叩き込まれたグレイスの蹴りはどうすることも出来ずに真正面から食らったマキナはそのまま地面に叩きつけられる。


「世界結界───天磐岩戸」


 地面にたたきつけられたマキナへと迫るグレイスの聖剣がマキナへと当たる───それよりも前に手の平を前で組んだマキナは声を上げる。


「固く閉ざせ」

 

 一瞬にしてレミヤの世界結界を塗り替えて展開されたマキナの世界結界が己のすぐ目の前へと迫ったグレイスへと牙を剥く。


「ぐっ!?」

 

 複合的に合わせった万の魔法によってグレイスは強引に吹き飛ばされ、そのまま地中より溢れ出る溶岩の中へと落ちる。


「世界結界───黙示真録」

 

 だが、すぐさま再度展開される世界結界。

 今度はレーテムの世界結界が展開され、グレイスが溶岩から解放されると共にレーテムの手にある杖より発動する回復魔法によってその身を


「ありがとう、助かった」


「……」


「それで、君はレーテムの世界結界の中で戦うことを選んだというわけか」


 全快したグレイスは再び聖剣を握って一度は解けてしまった自分の強化魔法を再展開させながら


「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 質問に答えることのないマキナは息を切らしながら自分の手を空へと向ける。


「……何?」


「何じゃ?」

 

 急に手をあげる……その意味がよくわからなかったグレイスとレミヤは首をかしげるが。


「……ッ!?」

 

 自分の世界の中から外の世界を認識しているレーテムだけは外の世界で何が起きているのか、それを的確に認識している彼女は表情を引き攣らせる。


「思ったよりも準備に時間がかかった……が、これでイーブンだよ?」


「何が……?」


「……外から来る」


 困惑するグレイスたちに対してレーテムが小さく呟く。

 

 


「魔導解放・魔ノ界・焔」




 それと同時だった。

 高度に練り上げられた、自然エネルギーを吸収しながら巨大化するマキナの魔導がレーテムの世界結界へと、その外側からぶつかる。

 本来は壊れないはずの世界結界。


「……ッ」


 だが、マキナの焔は周りの自然エネルギーを取り込んで成長する。

 自然エネルギーとはもとよりある世界が持つ力……いわばこれはレーテムの世界と本来ある世界のエネルギーの一部の衝突。


「……は?」

 

 ぶつかりあう世界と世界。

 起こった結果は両者の消失であった。



「これが、自由だ」

 

 

 戦闘前はそびえ立っていた巨大な山脈が消し飛んだ───が消し飛んで随分と殺風景になってしまった荒野の上で。

 両足から血を流しながらマキナは両手を広げて満足げに口を開くと共に再び手を合わせるのだった。

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