勇者たちの乱舞③
三人が世界結界という札を切った。
もはやこの場にはしばらく世界結界が展開されることはないだろう。
そんな中、かつてはあった龍の根城たる山脈が消えうせた荒野の中で。
「魔導解放・天ノ界・霊崩」
「魔導解放・天ノ界・罰撃」
この場にいる面々が次に切る札はマキナもよく使う魔法を超えた魔法、魔導だ───人のための魔導解放だ。
レミヤの手から金色の光が、レーテムの手からは白銀の光が、マキナに向かって一直線に放たれる。
そして、それと同じくしてグレイスも地を蹴る。
「魔導解放・天の界・皙」
金色の光と白銀の光。
聖剣を握ったグレイスが迫りくる中でマキナはもう一つの魔導を発動する。
「……は?」
レミヤの体より漏れ出した白色の炎が金色も白銀も飲み込んで消し飛ばす。
「チェックメイト」
ただ一人での突撃となったグレイスへと視線を送るマキナは言葉を一言。
「……ッ!?ッ、聖剣エクスカリバーッ!!!」
それに対して一度は息を呑み、それでもグレイスは聖剣へと大量の魔力を流し込んでマキナへと振るう。
グレイスがマキナへと振るった聖剣は白色の炎をすり抜けてそのままマキナの体を確実に切断しながらも何の手ごたえもなく空ぶる。
「……ぁ…ッ!!!」
聖剣より溢れる余波が荒野を陥没させ、大気を切り裂いて曇り空を真っ青な青空へと変えてしまった中で、自然な動作でマキナが振るった白色の炎を纏った彼の手刀はいともたやすくグレイスの聖剣を握る腕を斬り落とす。
「……?」
それを見てすぐさまグレイスに回復魔法を発動させようとするが、回復魔法が一切の効果を発揮しないことにレーテムが首をかしげる。
「無駄だね。しばらくは回復出来ないよ」
レーテムに対して告げるマキナは自分の魔力を開放しながら告げる。
「まぁまぁ魔力は削れたけどまだまだ魔力は残っている……今回も僕の勝ちだね」
魔力は削れた。
だが、これだけやってなおマキナの底がギリギリ見えた程度しか削れていない。もうレミヤの最大魔力量を五回は埋めるほどの魔力を世界結界内で吸い尽くしているというのに、だ。
そんな中で一人は片腕を失って大幅に戦力が低下し、ここまで多くのバフとデバフをばら撒いて回復もこなし、世界結界に魔導まで使ったレーテムの魔力はほとんど尽きている。
この場はどう考えてもマキナの勝利と言えるだろう。
「……クソ」
「……の、ようじゃなぁ」
「……」
三人は素直に敗北を受け入れる。
このようにして全力でぶつかり合うのは勇者パーティーじゃ珍しくはない。彼女たちも敗北を認めるのは慣れっこである。
ヤンデレも相手が自分よりも強かったらどうしようもない。愛の押し売りをしようにも押せないのだから。
「ということで僕は一度助けを求められた小国を救ってくるから!」
三人に見事勝利したマキナは己を頼るために山を越えてきた少女の為に戦ってくると三人の前で堂々と宣言する。
何故、争いが起こったのかまったくもって理解していない愚行である。
「そうだね。勇者パーティーとして困っている誰かを助けるのは当然の行いだよな」
「まったくもってそうじゃな。急いで助けてやらねばな」
「……」
「あれ?君たちってば小国なんてどうでもいい、どうしても助けに行きたいのなら自分たちを倒してからいけ、的なことを言っていなかったけ?」
「そんなひどいことを勇者たる僕が言うわけないだろう。なぁ、二人とも」
「そうじゃ、そうじゃ。何を今更のことを言っているのじゃ」
「……」
マキナの言葉を三人がかりで否定していく。
「そうかぁ」
そして、どう考えても無茶な口車にあっさりとマキナは乗せられた。阿保である。
マキナに愛の押し売りは効かない。
だが、普通に口で封じ込めて愛をそっと忍び込ませることは出来る。
「ほら、早く行くぞ。僕たちの助けを待っている人たちがいるだろう」
「そうじゃ、そうじゃ。早くするのじゃ」
「……」
「そーやねぇ。急いであげないと彼女が可哀想!」
「それでじゃ。さっきの天ノ界はなんじゃ?初めて見るのじゃが」
「あんまり使い機会がないクソ技だよ」
「あれがクソ……じゃと?」
「クソクソ。自分が相手と近距離戦を行うことを前提とした技だしね。普通に微妙だよ」
「にてもマキナも天ノ界のほう使えたんだな」
「逆だよ。天ノ界が人で、魔ノ界が魔のものだよ?言うべきは魔ノ界の方が使えるんだねだよ。普通に。当然僕だって天ノ界使えるよ」
「いや、まぁ……そうなんだけどさ。魔力が化身化したのがマキナで魔の者なのかと思っていた」
「何それ、どんな狂生物?僕はちゃんと母親のお腹の中からしっかりメリメリと生まれているよ」
「逆になんか親がいることの方が信じれないのじゃが……」
「そんなに言うなら会わせてあげようか?既に死んでいるから骨になっちゃうけど」
好き放題暴れ果てたマキナたちは朗らかな雰囲気で雑談しながらこの場を後にする。
クソみたいにくだらない痴話げんかの果て。
痴話げんかの後に残ったのは何の意味もなく殺され、死体もわずかに残る鱗だけとなった龍に消滅した山脈の跡地であった。
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