戯言
ほとんど魔力も残っておらず、その身も既にボロボロである。
魔王の形代を倒すために使った切り札、あの時点で穴という穴から大量の血液を垂れ流しているのだ。
無事であるわけがないのだ。
「かっふ……ひさし、ぶり」
常に結界でその身を守っているマキナがまともに己の身に蹴りを喰らうのすら久しぶりであった。
マキナは、どこか遠い目を浮かべながら、ふらふらと立ちあがる。
「これでお前ももう終わりだ」
圧倒的に有利な状況で何も出来ずにあと少しで殺されるというところにまで追い詰められたイスタルは一度、荒ぶった感情を収めてから言葉を告げる。
「この、結界を少しでも解けば俺を殺せたものを」
イスタルは結界に向けて弱い魔法を連射し続けながら、呟く。
すべての人間を守る、そんな戯言を絶体絶命下であっても捨てようとしないマキナの拘りが今の状況を産んだと言える。
「どうだ?今からでも解いてみないか?常時発動している魔法に使っている魔力分を俺に使えばまだ戦えるかもしれないだろう?」
イスタルは確信を持ちながらも口を開く。
「……断る。僕は英雄であり、僕が僕である限り……誰の犠牲も認めない」
マキナはイスタルの確信通りに拒絶する。
「僕は英雄だ。この身が尽き果てようとも必ず僕を慕う民は救ってみせる……ッ!」
どのような状況になっても誰も見捨てない、と。
「そうか。だが、お前のそんな戯言は所詮、戯言で終わる。俺はお前を殺した後に王女を攫ってこの街を滅ぼすことにしよう」
イスタルは腕の一振りで幾つもの魔法を発動させ、それらをすべてマキナへとぶつけていく。
「……ッ」
マキナが貼った弱々しい結界は一瞬で破壊され、多くの魔法がマキナに直接被弾すいる。
「げっほ……けほ、……ぅう」
「これで終わりだ」
地面を無様に転がるマキナの前に立ったイスタルは魔法で作り出した剣を持ち───マキナの首を斬り落とした。
「ふんっ……王女は、まだ王城の中か」
既に魔力もほとんどないマキナに出来ることなど何も出来ない。
消えゆくマキナの魔法と共にただ地面へと落ちていくしかなかった。
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