魔王と英雄
魔王。
それは遥か昔に人類を滅ぼすために大暴れした存在であり、当時の勇者によって魔王の配下である魔族ごと封印されていた存在である。
そんな存在が復活したのがちょうど今より半年前だ。
復活するとともに辺境の大国であったガザール王国を滅ぼして魔王国の建国を宣言すると共に全世界へと宣戦布告した魔王の存在はすべての国のものにとって寝耳に水な出来事であり、遥か昔の存在なのにも関わらず圧巻の強さを有していた魔王軍を前に人類は震え上がり、魔王軍の四天王が一人によって率いられる十万を超える魔族に人類は滅ぼされるのだ。
そう断言する者までも現れる中で。
かつての勇者のように圧倒的な力を持って姿を現した一組の男女の存在もまた、すべての者にとって予想外の存在であった。
「ふわぁ……眠い」
まさに獅子奮迅。
剣の一振りで大地を割るグレイスに一つの魔法で大気を消し飛ばして夜を作るマキナの二人は、ただ二人だけで魔王軍の四天王の一人を含めて魔王軍を崩壊させた。
そんな二人から始まり、世界の中でも異端者にして強者であったレーレムとレミヤが加わり、四人だけで国を落とせる勇者パーティーが結成された。
「うなぁー!!!ねむぅー!」
そんな勇者パーティーの一角にして伝説を作った大魔道士たるマキナはそんな肩書きの威厳など何処へやら、大きなソファへと寝っ転がり、これ以上ないほどにだらけきっていた。
「うるさいのじゃ」
そんなマキナへとレミヤがジト目で文句を告げる。
「……二人ともまずは寝っ転がるのをやめようか?そこベッドじゃないよ?」
そして、ソファにだらしなく寝っ転がっているマキナとレミヤの二人をグレイスが嗜めるように口を開く。
「僕がベッドだと思ったところがベッドなんだよ?それに僕のやりたい放題していても王様だって何も言わないでしょ」
今、マキナたち勇者パーティーの面々がいるのは王城の一角にある応接室の一室。
本来であれば礼儀よくしていてはいけないところではあるが、そんなことを知ったことじゃねぇ!と言わんばかりのマキナとレミヤの態度であった。
「それでも、だよ?僕たちは誉ある勇者パーティーなんだ。それ相応の礼儀は持つべきだと思わないかな?」
「民衆に礼儀なんてわからないから良いでしょ。それに貴族だって礼儀正しい僕を求めていないでしょう」
マキナが目指すのはすべての者たちにとっての英雄である。
彼の中にある英雄像としてはだらしくなく、常に女を囲っているようなダメ人間だが、それでもなお圧倒的な力を持つ存在なのだ。
だって、それが彼の知っている英雄であり、多くの王侯貴族の記憶に残っている英雄なのだ。
故にマキナこれでよく、彼はダメ人間で居続けようと努力するのだ。それが英雄であると信じているから。
「わしはこれで良いのじゃ!高弟じゃし!偉いんじゃよ!」
「ふっ。でも所詮はただの弟子」
「何じゃと!?良いか?わしの師とはいわば星であり、世界であり、神であるのだ。その中でも高弟たるわしは……」
「はいはい」
つらつらと自信満々に語るレミヤの言葉をマキナは軽く受け流す。
「なーっ!聞くのじゃ!!!」
そんなマキナの態度に怒りを抱いたレミヤは怒りのままに立ち上がり、寝っ転がっているマキナの上へとダイブしようとする。
「……レミヤ?」
「……っ」
だが、それをグレイスはただ一言で制する。
「へっ、ビビってやーんの!」
グレイスの言葉にビビって動きを止めたレミヤを見てマキナは煽りの言葉を口にするが。
「し、仕方ないじゃろう……なんかグレイスは怖いのじゃ」
返ってきたのはかなり切実な言葉であった。
「いや、それはわかるけどね?」
グレイスは怒ったらヤバい。
それはマキナとレミヤの共通認識である。
「そんなところで二人の意見が合致してないでくれよ。僕は恐れられるような人間じゃないんだから」
「いやぁ……どうだろう?僕が女の子にナンパしていたらハイライトの無い目かつ無表情で勇者パーティーとしての自覚を持てとか言って粘着してくるし……僕の放つ魔法をすべて素手で弾き返すの止めてほしい……自分はいつも女に囲まれているくせに僕が女の子を囲むの止めないでほしい」
「ちょっとわしがムカつく貴族をフルボッコにして金庫から金を奪っただけでガチ怒りするのは止めてほしい」
「いや、お前は怒られて然るべしだろ。僕とかただのナンパで怒られているんだよ?」
「でも、たかが一庶民をナンパしにいくのは名誉在る勇者パーティーの一員としてどうじゃ?しかも、あのときにナンパしていたのって人妻だったじゃろう?普通にアウトじゃろ」
「はぁー、身分で差別するとか、これだから遅れているロリっ子は。それにあの人だってまんざらでもなさそうだったから!多分夜の生活に不満を……」
「ふたりとも?もうすぐ来るから……静かにね?」
会話が猥談の方に向きつつある中、再びグレイスが口を開く。
「「……はーい」」
マキナとレミヤはグレイスの言葉に対して素直に頷き、口をつむぐのだった。
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