謁見
マキナとレミヤの二人が口をつむぐのとほぼ同じようなタイミングで彼らがいる部屋へと近づいてくる人物の足音がわずかに聞こえてくる。
そして、程なくして応接室の扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼します」
グレイスの入室許可の言葉の後の扉が開かれ、応接室の中に貴族然とした男が入ってくる。
「私はノイマン・レストゥーユ。レストゥーユ侯爵家の者にございます」
「簡潔に要件をお願いできるかな?僕たちは貴族の慣習を軽んじているわけでもじゃないけど、忙しいものでね」
「ハッ。国王陛下が及びにございます。謁見の間にお越しください」
「わかったよ。君の役目はここまで良い。後は勝手に行くからね」
「承知致しました」
グレイスの言葉に頷いたノイマンは一歩引いて扉のすぐ横に控える。
ノイマンの仕事は勇者パーティーの案内もあるが、彼らの作った部屋の清掃まで含まれている。
「じゃあ、行こうか。みんな」
「そうじゃのうぅ」
「……」
ソファに寝転んでいたレミヤとこれまでずっと動かず、喋らずにもいたレーテムがグレイスの方へと向かって歩き出し。
「……僕はこのままでいい?」
そして、行きたくないと告げるマキナをグレイスがつまみ上げて終わりだ。
「では行ってくるよ」
「ほぇー」
マキナを掴みあげるグレイスはレミヤとレーテムの二人と共に謁見の間の方へと向かっていくのだった。
■■■■■
勇者パーティー。
それは人類の希望であり、もはや国家すら超えた権力者である。
本来であれば謁見の間で国王を前にするとあれば膝を地面につき、頭を垂れるのが当然ではある。
だが、唯一勇者パーティーは例外であった。
「おー!よくぞ、参った!よくぞ参った!」
「うぃー!国王っち。菓子ー」
「おぉ、良いぞ。良いぞ」
グレイスに掴み上げられていたマキナがその手のうちから逃げ出し、フレンドリーに国王陛下その人に声をかける。
いや、というよりも国王その人がフレンドリーにマキナたちへと声をかける方が早かった。
「よっと」
勝手に謁見の前に円卓のテーブルと五つの椅子を魔法で作り出したマキナはその椅子の一つに自分が座り、グレイスたちもそれに続く。
ただし、グレイスはマキナの下にであるが。
「それで如何用ですか?」
国王が広げた机の上に広げたお菓子をムシャムシャ食べ始めたタイミングでグレイスが口を開き、国王へと疑問の声を上げる。
「……」
それを受け、これまでマキナを可愛がる好々爺としての一面を覗かせていた国王はその表情を真面目なものへと切り替える。
「我が娘、第二王女たるアルカ・ブルペーが魔族より誘拐された」
「……っ、それは」
「なんじゃと?」
国王の言葉にグレイスとレミヤが頬を引き攣らせる。
「……」
そして、マキナは静かに探知魔法を広げて遥か遠くに幽閉されている第二王女を発見、そのまま個人用の結界を展開する。
「どう?マキナ」
「ん」
己の膝の上に座っているマキナへと視線を送ったグレイスは疑問の声を上げ、静かに頷く。
「……ん?」
「それで国王陛下」
そんな二人のやり取りの意味がわからず首をかしげる国王ではあるが、それについての詳細を聞くよりもグレイスが彼へと声をかける方が速かった。
「我々への依頼は?」
「あぁ、そうであるな。簡潔である。魔王と戦う上で切り札足り得る固有魔法を持つアルカを世界のため、救出してほしい。国宝たる守護の指輪を身に着けているため、しばらくの間は無傷であろうが……それでもそこまで時間があるわけでもない。そして、既にアルカが誘拐された先も既にわかっている」
「救出依頼か」
「うむ、そうである」
グレイスの言葉に頷くと共に国王陛下は椅子から立ち上がって自分の頭に被っている王冠を机の上に置く。
「そして、ここよりは国王ではなく余としての……ただ一人の父、フリードル・ブルペーからの切実な願いである……どうか、どうか……、娘を頼む……ッ!」
ルースト王国ブルペー朝四代目国王たるフリードルは、今このときばかりは王としての着物を脱ぎ、ただの一人の父としてマキナたちへと深々と頭を下げる。
「安心してよ」
そんなフリードルの願いに誰よりも先に答えたのはグレイスではなくマキナであった。
国王の肩に手を置き、視線の下がっているフリードルと目を合わせるマキナは口を開き、力強い言葉を向ける。
「僕は英雄。生きとし生ける、心より繋がれし者すべての味方であり、すべてを助ける者、それこそが僕であり、英雄である。必ず救って見せる。だから、案じるな」
運命すらも捻じ曲げる英雄は、すべてが為の英雄たる彼の発露。
その決意は否が応でもフリードルへと全幅の信頼を植え付ける。
「よろしく、お願いします」
「もちろん」
マキナはフリードルの祈るような言葉に笑顔で頷くのだった。
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