勇者パーティー
まさしく英雄。まさしく最強。
魔道士としてありとあらゆる名誉を得ていたことを納得させる圧巻の強さを見せつけたマキナは今、女騎士の上に崩れ落ちていた。
「ちょ、ちょ、大丈夫か?魔力切れ、か……?」
「いや、単純に二日酔い」
英雄然としていたマキナは一体どこに消えたのだろうか。
女騎士の上に崩れ落ちるマキナからは一切の威厳を感じられなかった。
「え、えぇっと……?」
女騎士が困惑しながらも、それでもちょっぴり母性本能をくすぐられながらどう行動するか迷っていると……。
「何しているの?」
「ふげっ!?」
女騎士のかわりにいつの間にか現れていた鎧を纏った一人の御仁。
誰もが目を奪われる圧巻の造形美を持った世界最高の英雄にして勇者たるグレイスが女騎士へともたれかかっているマキナを強引に持ち上げる。
「ゆ、勇者様!」
「……むぅ」
ちょっとだけ粗相をしてしまったかもしれないが、それでもしっかりと助けてあげた女騎士が自分にではなくグレイスの方へと黄色い歓声をあげたことに対してマキナは不満げに言葉を漏らす。
「はぁー、こやつは本当にわしらと同じ勇者パーティーなのじゃ?なんとも情けない姿なことじゃ」
「……」
この場に突然現れたのは勇者であるグレイスだけではなく聖者レーテム、高弟レミヤの二人も同じであり、今ここに勇者パーティーたる四人が勢ぞろいした。
「僕は別に止めても良いよ?」
「「「……」」」
三人はマキナの言葉に完全なスルースキルを発揮してガン無視し、周りへと視線を向ける。
「マキナがここで皆を守っていた間に僕たちが元凶たる魔物を討伐してきた。これよりも散発的な魔物の侵攻、魔物の活性化はあるかもしれないが、大規模なものはないであろう!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
勇者であるグレイスの言葉にここで息も絶え絶えになりながら魔物と戦っていた冒険者たちが歓声の声を上げる。
「……また全部持っていくようなことをしてぇ」
そんな傍らで、グレイスに捕まっているマキナは不満げに頬を膨らませがら声を漏らす。
「僕たちには数多くの使命がある!すべての問題を片付けるべくここに残りたいところではあるが、そんな時間の余裕はないのだ!本当にすまない!それでも、君たちが立派に戦い、ここを守るべく勇敢に戦い抜くと信じている!僕たちは王都に行かねばならぬのだ……ここは任せたぞ」
そんなマキナを無視してグレイスは誰よりも英雄らしく言葉を届け、他の者たちを勇気づける。
「ほら、マキナ。僕たちを王都にまで転移魔法を頼む」
そして、今度は声量を落としてマキナ個人へと声をかける。
「……ほいほーい」
それに対して、マキナは不満げにしながら、それでも職務はしっかりとこなすべく適当に転移魔法を、一流の魔道士が数人がかりでやっと一人を運分のが関の山という超高難易度な魔法である転移魔法を発動させ、勇者パーティーを王都にまで転移させるのだった。
■■■■■
グレイスとマキナの生まれ故郷であり、二人の母校であるアリーシア学園もあるルースト王国のが王都、ベルン。
王都にやってきた勇者パーティーのメンバーたちは他人が自分たちを認識出来なくなるような認識阻害魔法を使いながら王都散策を楽しんでいた。
「むふぅー、やっぱり王都の甘味は美味しい」
手いっぱいに屋台で購入した甘味を抱えるマキナは魔法で器用に自分の口元へと運んだ甘味を口にし、幸せそうに頬を緩める。
「どれ、わしにも一つ……」
そんなマキナを見て甘味へと興味を抱いたレミヤが手を伸ばすが、それはマキナは魔法で弾く。
「何するのじゃ!?」
「全部僕のだから」
「そ、そんなにあるのじゃから一つくらいは良いじゃろう!」
「嫌だ」
レミヤに対して絶対の拒絶感を見せるマキナ。
そして、子どもっぽい二人が互いに敵意をむき出してにして軽くじゃれ合い出すまでに時間はいらなかった。
「はぁー、全く。騒がしいことだね。もう少し二人には勇者パーティーとしての自覚を持ってほしいんだけど」
魔法と拳を交えて静かに、だがレベルの高い高度な争いを繰り広げているマキナとレミヤの前を何も喋られないレーテムと隣あって歩くグレイスが半ば呆れたようにつぶやく。
「そんなものを持たない僕は今すぐに辞めても良いよね?」
「何を言うのじゃ!お主は何でもかんでも抜けることに繋げすぎじゃ!そんなにわしらと同じ仲間であることは嫌かっ?」
「うん」
レミヤの言葉にマキナが即答し。
「なんでじゃあ!」
その返答を聞いたレミヤが頭を抱える。
「……ふたりとも」
「「……っ」」
どこまでも巫山戯きっているマキナとレミヤの二人にグレイスが若干の怒気を込めながら声をかける。
「もうすぐ王城につくから、真面目にしなさい。マキナも、早く食べ終わった」
「……ん。わかった」
グレイスの言葉に頷いたマキナは手元にあった大量の甘味を一瞬にして口の中へと突っ込み、すべてを平らげる。
「それ、味わかるのかじゃ……?」
「わかるよ?僕は天才だから」
「お主はテイスティングの天才でもあったのかじゃ……?」
「はぁー」
どこまでも締まらない勇者パーティーを率いながらグレイスは王城へと入るのだった。
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