ヤンデレ高弟レミヤ
基本的にマキナは食物における好き嫌いは持っていない。
何でも食べるし、何でも食べられる。
だが、唯一。甘味だけは明確に好きであるとマキナは確固たる意思で断言することが出来た。
「どれにしようかなぁ……」
レミヤと共に王都の有名なケーキ屋へとやってきたマキナは表情をほころばせながらメニュー表を開いている。
「どれが良いと思う?」
テラス席に座っているマキナは自分の前に座っているレミヤへと疑問の声を投げかける。
「そうじゃのう。これなんかはどうじゃ?今から一年三ヶ月二時間三分前にここへとやってきたとき、お主はこれとこれで悩み、これを選んでおった。であれば今日はその時に選ばなかった方が良いんじゃないかのぅ?」
「むむぅ。そうだね……それが良いかも。レミヤはどれにするか決めた?」
「大丈夫じゃ。もう決まっておる」
「おけ」
レミヤの言葉を聞いたマキナは店員さんを呼んで注文を済ます。
「ふぃー」
そして、店の席に座ると同時に出されたティーカップに入っている紅茶を胃の中へと流し込む。
「それで?先程は何をしていたんじゃ?」
「いつものことだよ、なんかレーテムが僕に抱きついてそれに対してグレイスが聖剣でずとん!だよ?」
「……それが、嫌なのであれば早々に二人を拒絶してはどうじゃ?」
「良いよ、断るのも面倒だし……そんなことよりも僕の興味関心はこれから来るであるケーキと道行く女の子たちにある」
ケーキ屋の二階のテラス席に座るマキナは紅茶のカップを片手に道行く女性たちの方へと視線を送る。
「ほら、見たまえ。あそこの、ハンカチが落ちている木陰で本を読んで待っている。僕の勘からしてみて多分まだ未婚だ。年齢的にはそろそろ行き遅れの域に足を突っ込みそうな勢いであるし、僕が愛人にならないか迫ったら頷いてくれそうだ」
「あぁ、あれは多分駄目な奴じゃな」
「その心は?」
「きっと醜いのじゃ。そもそも行き遅れるには行き遅れるだけの理由があるはずじゃ。おそらくでは在るが、あのおしとやかそうな面のうちには猛獣のようであろう。浅ましい本性があるに違いない。金にがめつく、生活面でも横暴。家事は壊滅的であり、料理を作れば出来上がるはダークマター。食べれば腹を下すような代物となろう。あの女は駄目じゃ。近づいてはならぬ邪悪に他ならないのじゃ」
「……おぉう」
レミヤより告げられるあんまりな評価にマキナは若干引いたような声を上げる。
「それじゃあ、あの女の子はどう?純粋に可愛い」
「あれもダメじゃ。わしの所見を考えるに男を騙してお金を巻き上げる売女に違いないのじゃ。唾棄すべき女よ。己の体を売る他何のとりえもない女を侍るなどありえないのじゃ。目にも触れてはいけぬのじゃ」
「……何か嫌なことでもあった?」
再びのあまりにも辛辣すぎるレミヤの答えにマキナが本気で困惑しながら疑問の声を上げる。
いつものレミヤであればもっとマキナの軽口に乗ってくれるはずなのだが……今日は敵意がフルマックスであった。
「……嫌なことであれば今この状況じゃ。何故わしを前にして他の女の話をしているのじゃ。どれほどわしを嫉妬の炎で狂わせれば気が済むのじゃ。もはや両腕両足をもいでわしの部屋に、いや現実的に勝てないじゃろうなぁ。わしに管理されるようなぬるい男じゃなかろうて。だが、王都の女子はダメじゃ。近すぎる。現実的に付き合えてしまうじゃろうて」
「……レミヤ?」
急にぶつぶつと流れるような不満を口にするレミヤに困惑しながらマキナが首をかしげる。
「お待たせいたしました。こちらとなります」
そんなタイミングで店員が二人の頼んだケーキを持ってきて二人の前にあるテーブルの前に置く。
「おぉー!」
ケーキを前にするマキナのテンションが跳ね上がり、先ほどまであったレミヤへの疑問が吹き飛ぶ。
「うまうま」
マキナは満面の笑みでケーキを口に運び、笑顔で告げる。
「ふふふっ」
そんな様子を目の前で見るレミヤは実に穏やかな笑みを浮かべ、粘つくような執着の愛情に濡れた瞳にマキナを宿す。
「……そっちのも美味しそうだなぁ」
ケーキを食べ進めるマキナは自分の前にあるもう一つのケーキ。
レミヤのケーキを見てぼそりと呟く。
「うむ。わかっているのじゃ。そう言うとわかっているのじゃ」
レミヤはマキナのその言葉に頷くと共に自身のフォークを掴んで口元に持っていて舐めて己の遺伝子をしみこませる。
「一口上げるのじゃ」
「わーい」
自身の唾液で濡らしたフォークで一口分のケーキを取ったレミヤはマキナの方へとそれを差し出す。
「あーん」
差し出されたケーキへとマキナはパクつき、ケーキを口に含み、フォークについているクリームまできれいに舌で舐めとる。
「むふふ。そっちの方も美味しいぃ」
自身の舌の上で踊るケーキの甘さに舌鼓を打つマキナは満面の笑みで言葉を漏らす。
「……ふふふ」
そして、レミヤはマキナが口にしたフォークを再び自分の口元へと運び、無意識的に自身の空いている手を下腹部へと持っていくのであった。
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