第三章
戦況
シーフルへと手短に別れの言葉を告げてから結界をグレイスの一振りで破壊してリヒテン小国の外へと出たマキナたちは先程までいた地との、その雰囲気の違いに眉を顰める。
「……ふぅー」
明らかに雰囲気の違う、空気中を漂う精霊たちが慌てふためいている様子より、己の予想通りに戦乱が起きていることを悟るマキナは手を合わせて大陸全土をまるごと探知する。
「……仇の剣を鍛えておいてよかった」
おそらくは一ヶ月前から行われていたであろう魔王軍による侵略。
それによって食い荒らされ、戦線が破れられ、幾つもの国が落とされる中……それでも、仇の剣を中心として人類は団結し、魔王軍の侵略にあらがってた。
「……怪我人は多いし、敵も多いな……やるか」
マキナは己の魔力を昂らせ、爆発させる。
大陸全土を覆うほどに広範囲で……すべての怪我人を治す回復魔法とすべての者を守る結界魔法を展開する。
発動した魔法自体はそれほど高位でもない。
超一流の回復並びに結界魔法の使い手であれば使える程度のものだ……だが、大陸全土を覆うほどなどという無茶苦茶な範囲で魔法を発動できるのは想像の埒外にいるマキナの規格ハズレの魔力量があってこそであろう。
「そ、そんな大規模に魔法使って大丈夫なのじゃ?」
ずっと仲間として一緒にいるレミヤであっても初めて見るほどの広範囲による魔法の発動に心配そうな声をあげるが。
「んっ、まだまだあるから大丈夫」
それに対してマキナは問題ないと断言する。
明らかに人ではない。
「まぁ、マキナはマキナだからね」
それに対してグレイスが肩を竦めながら答える。
学園に通っていた時代から知っているマキナを知っているグレイスは彼の頭のおかしな魔力量の嫌というほどに知っているのだ。
「それで?私たちは何処に行く?」
「……また別れることになるのじゃ」
「……」
「いや、今回は別れる必要ないな。既に人類側の傷も疲労も治してカチカチの結界も展開している。元より結構均衡していたし、僕の支援だけで通常の戦線は大丈夫」
「そうなの?」
「うん、そうだね……その代わりとして、僕たちが喧嘩していた山脈があった荒野に数多くの魔王軍の幹部や四天王などと言った実力者が揃っている。そこに向かうべき、だね」
自分たちがどう動くか、早々に判断したマキナは直ぐ様グレイスたちとともに行動を開始する。
「……なんで、一箇所に固まっているんだ?ばらばらになっていればもっと人類陣営を無茶苦茶に出来ていそうなものだけど。」
その移動の途中でグレイスは首をかしげて、疑問の声にあげる。
「向こうはわかっているんだよ。僕たちさえ叩けば問題ないってさ」
それに対して答えるのはマキナである。
魔王軍の侵略において障害になるのは何処まで行ってもマキナたちだけである。
逆にいうと人類が滅んでもなお、マキナたちさえ残っていれば魔族もろとも破壊されかねない。
それだけの戦力を有しているのだ。勇者パーティーは。
「向こうさんは僕たちを一人でも減らそうと躍起になっているんだと思うよ」
どれだけ相手が幾重もの罠を貼っていようとも。
すべてを破壊してやるという揺るぎない自信を言外に覗かせるマキナは軽い口調で語っていく。
「なるほど」
グレイスはそのマキナの言葉に納得が言ったように頷く。
そして、それからは会話が途切れてしばしの沈黙が走る。
「……そういえば、さ」
沈黙の果てに。
もう少しで荒野へと着くというところでためらいがちにグレイスが口を開く。
「ん?」
「聞いて良いのかはわからないけど……妹さん、確か王家の方で治療していたんじゃなかったけ?」
「あれは僕の兄として慕ってくれているだけで実際に血の繋がりがあるわけじゃないよ。血の繋がりがある者たちは全部僕が殺した」
サラッと残酷なことを告げるマキナは絶句するグレイスたちには気づかずに一直線に敵のいる荒野へと向かっていくのだった。
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