マキナの妹

 マキナはとある一つの組織の施設の中で生まれた。

 狂った宗教組織、ただ強さだけを求めて狂った実験を行い続けたものたちが辿り着いたその果て。

 唯一の成功例。本来であれば成功など万に一つあり得ないそこで引いた億が一。

 それがマキナであり、絶対にありえない成功を遂げてしまっただけの不完全な組織にマキナをまともに管理出来るシステムなんて持ち合わせていなかった。


 ただ生まれたその日より当たられたすべてを呑み込んで強くなれという教育方針に従ってまずはその宗教組織を呑み込んだ。

 そんな彼は、真っ白なキャンパスはすべてを見て学んで、模倣しながら徐々に成長していった。宗教組織を壊滅させたマキナを拾った諜報機関の元で。


『愛っていいなぁ』

 

 己の手で両親さえを殺した小さな少年は、愛など言う感情を理解出来ない、ただ一人道を歩く少年は、その傍らで家族全員で楽しそうに歩くものたちを見ながらぼんやりと思ったのだ。


「ガァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 過去を思い出していたマキナの肩へと異形の狼は噛みつき、マキナの皮を破って肉へと牙を入れる。

 だが、その肉を断つことは出来なかった。


「許せ、我が妹よ。かつての僕は囚われ、死してなおも囚われ続けるお前を開放する術をもっていなかった。だが、今は違う」


 異形なる狼に噛みつかれたマキナは優しくその身を撫でながら口を開く。

 キメラを作ろうとしていた狂った宗教組織は特に理論もなくただ多くの魔物と人間を一人混ぜて一つの生物を作り上げた。

 マキナの妹を、未だ3歳にも満たなかった幼子を用いて作られたその実験は失敗作を作り上げてしまった。

 

 キメラとしての幾つもの魔物の機能を持ち、マキナの妹の術式をその身に宿した一匹の獣が誕生した。

 その内側で永遠に素体となった人間の魂が魔物の魂に貪り続ける地獄が引き起こされるような状態で。


「魔導解放・天ノ界・皙」

 

 そのような状態より解放する術をかつてのマキナはもっていなかった……が、今のマキナは違う。

 ありとあらゆるものを消し去るマキナの体からあふれ出した白い炎は狼を呑み込んで包み込み、その身を焼き焦がす。


「ガァァァァァァァァァァッ!?」


 異形なる狼はマキナの肩から口を離して悲鳴を上げ、地面を転がる。

 マキナの白い炎は異形なる狼を焼いて、この世界から消し去っていく。そのがんじがらめとなったその魂ごと。


「……お前は、どこで愛を……?」


 体が燃やされ、魂が燃やされていく中で。

 マキナの瞳が驚きによって見開かれ、思わずと言った形でぽつりと声があがる。


「まぁ、良いや。おめでとう。そして、さようなら」

 

 一度、瞳を閉じたマキナは少しばかり燃え盛る異形なる狼から視線を外して唯一残っていた肉親が消えるのを待つ。


「……ぐっ」

 

 そして、妹の魂がこの世界より消滅したその瞬間にやってきた衝撃にマキナは膝をついて倒れる。


「ちょっ!?大丈夫なの!?」


「大丈夫じゃ!?」


「……ッ!?!?」

 

 そんなマキナを見て実の妹と向き合っているマキナを見てどう対応すればいいか迷っていたグレイスたち三人がいの一番

 そんな様子を一歩引いた場でシーフルが静かに眺める。


「大丈夫。輪廻転生の制度を超過した際の反動が来ただから……」

 

 慌てて駆け寄るグレイスたちの言葉に軽く言葉を返したケロッとした表情で立ち上がる。


「それ、大丈夫なの?」


「問題ないよ」

 

 グレイスの心配そうな声にマキナは軽い口調で返す。

 

「そんなことよりも、だ。早く外に出ないとマズい」


「えっ?なんで?」


 突然急かしてくるマキナにグレイスが首をかしげる。


「僕の妹の結界魔法にあるんだ。周りとの時間と結果内部の時間を捻じ曲げる魔法が。多分、既にこの国自体がその術中の中だ。シーフルに連れられた僕たちがこの国に入った瞬間に発動しているだろうから……外の世界じゃ既に一か月経っていると思うよ」

 

 それに対して、少しばかり焦ったような表情を浮かべているマキナはそう答えるのだった。

 

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