最強魔導士は追放されたい

「勇者パーティーなんてやめてやるぅぅぅうううううう!!!」

 

 冒険者たちで賑わう酒場の一角においてまだ幼い少年のように見える子、マキナがなみなみとビールが注がれたジョッキをテーブルに叩きつけながら叫ぶ。


「……なんでだよ、勇者パーティーの面々が女だってことはもうわかったんだろう?」

 

 ある日、突然王都にいるはずが自分の元にやってきたマキナに彼の友人であり、冒険者であるガイストが疑問の声を上げる。

 グレイスとヤッて童貞を捨てたといの一番に告げたマキナへと。


「まぁ、俺的にはお前があいつらを女だと思っていたことの方が驚きではあったんだが……とりあえずは既に自分のパーティーがハーレムだということはわかったんだろう?ならもう良いじゃねぇか。毎晩ベッドに自分の仲間を連れ込んでそれを下に敷いて寝ればいい。おっぱいを枕とし、女の体を布団と、女の匂いをアロマの代わりにするというお前が俺と飲むときに言い続けていたことがついに叶う瞬間だぞ」


 英雄であり、何処に行っても常に歓声でもって迎えられるマキナではあるが、この酒場は別である。

 魔王軍による第二陣の緒戦。

 スタンピードが起きたこの街はグレイスが生まれた地であり、マキナが生まれた地である。

 ゆえに勇者パーティーの面々に関する耐性があるこの街だとマキナはあまり騒がらない……例え、グレイスとマキナがヤッたという話であってもだ。

 小さい頃から見てきた餓鬼たちの猥談に全員が聞き耳を立てる程度である。


「うぅ……」


「何が問題なんだ?」


「……わかんない。けど、何故かわからないけどあそこにいたらダメな気がするから。あいつらは僕の敵な気がする」


 マキナは女に触れたことで色恋についても本能的に半ば理解しているようになっていた。

 だからこそ、予感出来てしまっていた。自分に迫る危機を。

 万人から好かれたいマキナと自分だけものにすることを望むグレイスたちとではその道が交わることがないと。


「なんて曖昧な」


「……英雄たる僕の勘だよォ!!!間違えているものかぁ!」


 マキナはビールを呷りながら断言する。


「それじゃあ、お前の目的は変わらずか?」


 それに対してガイストはおつまみをつつき、ちまちまと酒を飲みながらマキナへと尋ねる。


「もっちろん!」


 そんなガイストの言葉にマキナは勢いよく頷く。

 そして───、


「ぜったぁーいにやめてやるんだからぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」


 世界最強の魔導士は勇者パーティーから追放されたい!とどこまでも叫び続けるのだった。

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世界最強の魔導士は勇者パーティーから追放されたい!~え?イケメン集団の集まりだと思っていた勇者パーティーが実は全員女で、しかもヤンデレ化している?何それ知らないんだけど~ リヒト @ninnjyasuraimu

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