世界最強の魔導士は勇者パーティーから追放されたい!~え?イケメン集団の集まりだと思っていた勇者パーティーが実は全員女で、しかもヤンデレ化している?何それ知らないんだけど~
リヒト
一巻 魔王軍の萌芽
第一章
最強の魔道士は追放されたい
「勇者パーティーなんてやめてやるぅぅぅうううううう!!!」
人々へと襲いかかってくる危険極まりない地上に住まう魔物の退治に精を出し、多くの資源が取れる代わりに凶暴な魔物が徘徊する危険なダンジョンを攻略し、時には盗賊団の対処など対人戦もこなす街の便利屋であり、荒くれ者の集まりである冒険者と呼ばれる者たち。
そんな冒険者たちで賑わう酒場の一角においてまだ幼い少年のように見える子がなみなみとビールが注がれたジョッキをテーブルに叩きつけながら叫ぶ。
「もうイケメンどもの引き立て役はごめんだぁぁぁぁああああああ!」
どう考えてもお酒を飲んで良いような見た目には見えない少年、マキナがものすごい速度でビールを喉に流し込みながら、その小さな口から火を吐く。
「別に良いだろう?勇者パーティーなんて名声の塊じゃないか。当然、金もそれに見合ったものを貰っているんだろう?」
荒れ狂うマキナの対面の席に座っている一人の男。
マキナの古い友であり、彼と同じ冒険者であるガイストはそんなマキナに対して苦笑交じりに口を開く。
「ふんさぁ!それだけじゃ足りないんだよぉ!」
マキナはガイストの言葉に対して不満げに告げる。
平民でありながら貴族の通う名門学園たるアリーシア学園へと主席で入学し、そのまま一度も陥落することなく主席で卒業するという快挙を起点とし。
世界に暗い影を落とす魔王の退治を世界より託された勇者率いるパーティーの一員に選ばれ、神の子、銀閃の魔術師、海洋の支配者、太陽王などと数多の二つ名で呼ばれるマキナは誰もが認める世界最強の魔導士である。
そんなマキナは当然世界でも最高峰の名声に、その名に見合うだけの報奨金を得ている。
その財は彼を世界でもトップクラスの金持ちとするには十分な量であった。
「富と名声だけじゃ足りない!僕は女も欲しいんだよォ!!!」
だが、それでもマキナは未だに満たされていなかった。
「僕は英雄になる男だよ!?女の一人もいないんじゃカッコつかないよ!」
「お前は既に英雄やろ」
「女のいない僕が英雄なわけないだろ!いい加減にしろ!英雄色を好むのだよ!」
「お前の英雄像は一体どうなっているんだよ……あと、お前がモテないのはもっと別の理由……そう、根本的に背徳感と手を出しちゃいけない聖域感がなぁ」
実に的を得たガイストの小さな呟きなど耳に入ることのないマキナはただひたすらに酒を呷り、荒れ狂い続ける。
「これもそれも全部あいつらのせいだ!イケメン野郎めぇ!!!」
「まぁ、それもあるだろうね」
「勇者グレイスぅぅぅぅ!僕は許さないぞぉ!」
勇者グレイス。
マキナの所属する勇者パーティーのリーダであり、聖剣に選ばれし勇者であるグレイスは高学歴、高収入、高身長の三拍子が揃う完璧超人のイケメンである。
勇者としての圧倒的な力をもち、名門学園であるアリーシア学園を次席で卒業。公爵家と家柄も良いため、当然女性から異次元なまでにモテる。
低身長、平民生まれたるマキナはそんな圧倒的高スペックであり、常に多数の女性ファンに囲まれているグレイスに嫉妬しているのだ。
「むきゃぁー!!!勇者パーティーを辞めて僕は英雄になるぞぉ!あんなイケメンの引き立て役など御免被る!あいつがいたら僕はイケメンの後ろで少し杖を振っている凡夫になってしまうではないかぁ!独立して女を囲うんだぁー!」
「さいですか」
「毎晩ベッドにたくさんの女を連れ込んで僕は女を下に敷いて寝るんだ!おっぱいを枕とし、女の体を布団と、女の匂いをアロマの代わりにするんだ!」
未だ幼き少年のようにしか見えないマキナが堂々と下ネタを叫んでいる姿を前にしても周りで酒を飲む冒険者たちは一切動揺しない。
名門校であるアリーシア学園を卒業すると同時に冒険者となる共にその見た目の想像を絶する可憐さからどう絡んでいいかわかっていない冒険者たちへとダルがらみし、どんな冒険者よりもエゲツナイ下ネタを連発するマキナを知る彼らにとってもはやマキナの下ネタは驚くべき対象ではなくなっているのだ。
「うにゃー!今からカチコミじゃぁー!!!今日こそ辞表を叩きつけてやるぅー!」
長らく酒を呷り続け、ビールのジョッキを既に十杯も空にしたマキナは意気揚々と立ち上がる。
既に彼の足はふらついている。
「いってらー」
「がぉー!!!」
マキナはアルコールで火照った相貌を強い不断の意思で輝かせ、そのまま何も考えずに酒場から飛びだしていく。
「……あれ?待って、代金は?」
そして、残されたガイストはテーブルに広がっている大量のジョッキとつまみを見て呆然と声を漏らす。
マキナと同じ平民であり、特別な才人というわけでもないごく平凡な冒険者であるガイストの財布に余裕はない。
ここの代金を支払った後の彼の財布には今日泊まるための宿屋の代金など残っていないだろう。
「ふっざけんなよ、あいつぅぅぅぅぅううううううううううううううう!!!」
ガイストが怒り狂うのは至極当然の話であった。
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