マキナ
あの日、僕は道の端で見ていた。
英雄として圧倒的な支持を受けていた弱者たるゴスペルを。
僕よりも圧倒的に弱い身でありながら、それでも多くの者たちに囲まれていたゴスペルを見て、僕は少し前に貰った言葉に対する答えを得た。
『子は無条件に親を愛す!だが、お前はその親を殺した!何もわからぬ年にありながら親を殺したのだ!愛を理解出来ぬ餓鬼が!お前を愛する者など誰もいない!お前は天涯孤独、永久に一人だ!お前に、生きている意味なんてないのだ!はっはっは!誰も居ない世界で、唯一人屍のように生きるが良いわ!この世界で最も不幸なる子よぉ!!!はっはっはっは!』
英雄になれば、愛がもらえる。
生きている、意味を獲得できると、そう思ったのだ。
「マキナ様ッ!マキナ様ッ!し、しっかし!しっかりしてください!」
「回復魔法だ!一人でも多くの回復魔法が使える者を!?」
「もう、もういねぇよ!?全員戦地だ!?」
「お、俺が……俺が……!頼む、頼むぅ!」
「ここで、私が死んでも良いから……お願い、私の魔力。絞りだしてぇ!」
「マキナ様ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
「起きて!?起きてよ!?」
「何か、何か俺たちに出来ることは……」
「どう、止血する!?」
「首が、……首が戻らない……あぁ、冷たく、冷たくなっていく……」
「ば、馬鹿野郎!?つまらないことを言うじゃねぇ!!」
あの日、ただ見ていることしか出来なかった僕は、今やこうして人々に囲まれているのだ。
「だい、じょうぶ」
僕は震える体を動かして立ち上がる。
既に首は戻った。
「もう、治ったから」
僕は英雄だ。
少しの賭けくらい簡単に勝って見せる。
完全に傷も回復し、失っていた魔力も完全に回復した僕は自分の周りにいる多くの人を安心させるように口を開く。
「マキナ様ッ!」
「あぁ、良かった!」
「……おぉ、奇跡だぁ」
「良かった……良かった……良かった」
「す、すげぇ」
「マキナ様ぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」
「あぁ、本当に……流石だ」
僕がこうして立つだけで、僕の左目に映る光が変わっていく。
民衆たちの色が冷たく沈んだ寒色から明るく弾んだ暖色へと変化していく。
「あぁ……僕を讃えよ」
僕に、愛はわからない。
でも、僕の目は、感情を色で捉えている僕の目は確かに周りにいる人間が僕に愛をくれていることがわかる。
僕が姿を見せるだけで、僕の一挙手一投足で、変わっていく多くの民衆の色を見れば今、ここに僕が確かに存在しているのだと理解出来る。
僕は一人じゃないんだ。
「ワァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「マキナ様ァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「ばんさぁい!ばんざぁい!」
「マキナ様!マキナ様!マキナ様ァァァァ!!!」
僕を讃える声が天にまで届く。
すべての民衆が僕を見て、僕を感じて、大きな歓声をあげるのだ。
「君たちの声が、僕に力をくれる。君たちを背にする僕は無敵だ……だから、安心して待っていてくれ。王城の方も、無事に解決してくるから」
多くの民衆からの声援を背に受ける正に英雄と言うべき僕は無感情のままに地を蹴り、王城の方へと向かうのだった。
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