勘違い

 家の中でラフな格好をしたグレイスとマキナが互いに微妙な面持ちで同じソファへと腰掛けている。

 基本的に人間の機敏に疎いマキナであってもわかる。裸の異性と洗面所で鉢合わせるのは不味いと。


「……グレイスってば、女の子だったんだね」


 そんな沈黙の果てにマキナはぽつりとつぶやく。


「えっ!?!?」


 ぽつりと漏らしたマキナの言葉にグレイスが驚愕する。


「ぼ、僕を何だと思っていたん、だい?」


「普通に男の子だと思っていたよ」

 

 動揺しまくりのグレイスの言葉にマキナはさらりと同意する。


「な、なんでぇ……?」


「いや、自分のことを僕って呼んでいたし、言葉遣いも男っぽかったし……何よりも僕と初めて会ったとき、グレイスは男子更衣室にいたじゃん」


「……ぁ」

 

 マキナは基本的に他人への興味がないため、昔に出会った子を覚えていることはほとんどない。

 己が小さな頃にマキナに助けられて以来、ストーカーを拗らせていたグレイスが成長して二人が顔を合わせて再会したのは彼をストーカーしてやってきた男子更衣室の中であった。

 たまたまストーカー行為がバレてしまったことでテンパり、謎に自己紹介を始めたのが男子更衣室であったであったために今の今まで性別を勘違いされていたのだ。


「あっ……あっ、う……そ、そもそも……女として、見られてなかった?」


 ずっとモテたいと話していたマキナにグレイスはずっと不満を抱いていた。

 僕がいるのになんで、と……だが、そもそもマキナは自分を女とすら認識していなかったらしい。

 その衝撃はあまりにも大きすぎた。


「あぁ、そうだ。ちなみにだけどさ……もしかして、レミヤとレーテムも、女の子?」


 そんなグレイスの様子に気づかないマキナはありえないとわかりながらも彼女へと尋ねる……自分の同じパーティーメンバーであるレミヤとレーテムの性別も尋ねる。


「何を言っているんだ?当たり前じゃないか。二人も普通に女の子だよ」


 だが、『そんなわけないじゃないか!』と、笑い飛ばされると思っていた自分の言葉をグレイスによって真顔で『そうだ』と断言されてしまったマキナは表情を固まらせるのだった。

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