魔王の形代①
先ほどまでマキナの前に敵として立っていたガープの身を引き裂いてその口から一つの化け物が姿を現す。
そこにあるのは完全な異形。
背より生える三対の羽に頭より伸びる二対の角。
その相貌には口の代わりに縦に割れる牙の伸びる中に深淵を宿す穴が、瞳の代わりに幾つもの空いた穴より触手が伸びている。
その胴体からは計八つもの腕が伸びており、下半身は形容しがたい異形、瘴気を放つ触手が幾つもの重なりあって一つの花のようなものをかたどっていた。
「……でっか」
そして、何よりもそんな怪物の体躯は全長にして50mを超えるばかりである。
『お前が、マキナか……』
そんな化け物より何処からか声が響いてくる。
「そんな姿でしゃべれるの何かのバグじゃない?」
どう考えても喋れなそうな化け物のような見た目をしているのにも関わらず、滑らかな言葉で話し始めた化け物に対してマキナは真顔でツッコミを入れる。
『常に貴様が探知し、把握しているように余の復活も、その存在は完全ではなくてな……こうして力の一部を現世に顕現させようと思えばこのような異形の身を取る他なくてな』
マキナのツッコミに対して怪物は、魔王の力が込められたその異形なる形代はわざわざ丁寧な解説を口にする。
「出てこなくて良いのに……」
『貴様のような怪物を倒すのに余が配下どもであれば役不足であろう?』
「今のお前でも役不足だよ」
それに対してマキナは言葉を吐き捨てる。
『そうか……そうか。そうであるか?英雄よ。貴様の魔力の残量は如何ほどだ?同時に幾つ魔法を展開している?今でも地上ではお前が常に展開している封印魔法が余の肉体を含め、数多くの化け物を封じている。魔族の軍勢と戦うと戦う全人類に結界を貼り、全人類が少しの擦り傷を負うだけでも自動で発動する回復魔法。その他多くの監視魔法に難病患者の医療魔法、探知魔法に実験魔法に維持魔法。さぁ、毎秒どれだけの人間が枯渇する魔力を無駄に垂れ流している?』
「……」
愉快そうな口ぶりで魔王の形代はマキナへと声を叩きつける。
『して?どうであるか?余の世界結界の内部は」
「……崩壊だね?」
それに対してマキナは一言。
『然り。余が極めしは崩壊魔法。この場にいるだけで常に崩壊魔法がお前を襲い続け、その身を崩壊させ続ける……さぞ、辛かろう?無限に魔力を垂れ流しながら』
「……まぁ、別に問題ないかなぁ。うん。何ら問題ない。この程度であれば自然回復なしであと一か月は戦っていられるよ」
常時、一瞬にしてその魂ごと崩壊していく己の身。
それに対して常に再生させることで均衡を保っているマキナは軽い口ぶりでそう話し、魔法の光を手に宿す。
「この程度で僕を倒せると思っているのならば……舐めるのも大概にしろよ?凡夫」
そして、マキナの手元よりあふれ出した灼熱が魔王の形代を飲み込むのだった。
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