魔王の形代③

 魔王の形代を的確に貫いたマキナの『焔』。

 自然エネルギーなしでも十分すぎるほどの貫通力を持った焔を連発し、魔王の形代に穴をどんどん開けていく。


『グォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


 それに対して魔王の形代は何とか体を動かし、魔法を用いて対抗しようとするが、構わない。

 魔導開放は魔法の極地であり、ただの魔法では勝つことは難しいのだ。


『魔導開放・魔ノ界・次肚巨峰』


 故に、戦うのであれば魔王の形代も同じもので対抗する他ない。


『堕ちよ』

 

 魔王が発動させると共に起動する巨大な物体……大地が盛り上がり、一つの巨人となってマキナへと手を伸ばす。

 その様はまるで津波のようであった。


「……ふむ」

 

 マキナの魔導開放である焔は確かに何もなしでも十分すぎるほどの威力を持つ……だが、自然エネルギーを吸収してこその本懐であり、同格同士の打ち合いであれば本来の力を出せぬ状態では太刀打ち出来ない。


「……再生、はしないのか。むしろ、壊れているな」


 どれほど焔を打ち込もうとも壊れることのない大地の巨人から逃げながら魔王の形代の方へと視線を送る。

 そこにいるのは焔を打ち込まれた箇所を再生するどころか、それ以下。無理な形で発動している魔導開放で己の身を削っている魔王の形代であった。


「……ッ」


 このまま逃げ続ければ勝てる………そう判断したマキナだったのだが、そう簡単に大地の巨人からは逃げることは出来なかった。

 無限に拡張し続ける大地の巨人は逃げるマキナへと簡単に腕を届かせ、とらえて見せる。


「むむっ、魔法が発動しない」


 転移で逃げようとするマキナであったが上手く魔法が発動しなかった。


『無駄だ。それの手の中では何も出来まい』


 少し首を傾げるマキナに対して魔王の形代は告げる。

 大地の巨人に掴まれば最後、何も出来ずに死するのみだ。


「魔導開放・天ノ界・皙」


 囚われた中で次に発動したのはマキナのもう一つの魔導開放。

 白い炎が彼の中より膨れ上がり、大地の巨人の手を溶かして


『……そうも簡単に』


「本調子ですらない状態で発動して、僕に勝てるわけがないだろう」


 あっさりとその手のうちから逃れたマキナは手を合わせながらつまらなそうにつぶやく。


『……』


 大地の巨人を出しているだけで無理をしている魔王の形代は徐々にその身を崩壊させている……このままのジリ貧ではキツい。だが、この魔導開放を解けば再び焔の雨に晒される。

 どちらにせよ、敗北が見えていた。


 魔王の形代の勝利条件は確実に減りつつあるマキナの魔力が切れるのを待つか、本調子ではない大地の巨人でマキナの白炎ごと打ち破るのかのいずれかである。


「案ずるな、逃げ隠れるなんていうつまらないことはしないさ」

 

 どう動くか、内心で悩ます魔王の形代の前で堂々たる態度で地面に足をつけるマキナは両の手の平を合わせる。


「魔導開放・双天ノ界・白皙焔矢」

 

 合わせた手元より湧き上がる赤い焔を弓とし、矢を型取り、そして、白炎が包み込む。

 焔は自然エネルギーの代わりに白炎を吸収し、その姿を自由に変える。


『……ッ!?』


 天と魔。

 本来であれば二つ使えぬはずのそれを何故か共に使えるマキナはそれら二つを組み合わせ、己だけの絶技を生み出す。


『叩き潰せ!』


 魔王の形代は大地の巨人へと込める魔力を増加させ、フルパワーでマキナへと襲いかからせる。


「射て」


 大地の巨人も、魔王の形代も、まとめて全部マキナの白い矢が撃ち抜く。


『……』


 巨大な魔王の形代は白い炎に包まれる形でその身を燃やし、崩れ落とすのだった。

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