魔王の形代④

 パチパチという小気味の良い音を立てながらその身をゆっくりと崩壊させる魔王の形代から力が抜け落ちたことを確認したマキナは彼から視線を外して、世界魔法が解けた瞬間に地上へと出れるよう魔法の準備をした瞬間だった。


「……ぁ?」


 マキナの腹を一つの剣が貫いたのは。


「ガハッ……」

 

 突然の出来事にマキナが一瞬だけ動揺した瞬間に彼は足を掬われて態勢を崩し、その身に連続して小刀の斬撃を受ける。

 足がズタズタに裂かれ、両腕を斬り落とされる。


「……うらぁ!!!」


 そして、最後に自分の首元へと向けられたその一閃は───だがしかし、ギリギリのところで強引に歯で掴んで止めてみせる。


「ほう?」


 そして、そのまま歯で噛み砕いたマキナはそのまま全力で逃亡する。


「……っ」


 ありとあらゆる魔法を得意とするマキナ。

 そんな中で彼が強いて苦手な分野を上げるとすれば回復魔法である。

 

 レーテムであればどれだけ複雑な魔法が込められた傷であろうが一瞬で治すが、マキナは複雑な魔法が絡み合って回復を阻害するような魔法がかけられた傷は簡単に治せなかった。


「……」


 それだけじゃない。

 マキナは両腕を斬り落とされてしまった……これでは、両腕から発動させるのを条件とする魔法は使えない。

 一応、発動できるような魔法もあるのだが……それでも通常よりは大きく戦力が低下するだろう、強力な回復魔法だってままならない。


「まだ、終わっていないのにどこへ行こうと言うのだ?えぇ?」


「……どんな、魔法だ」

 

 うまく回復できずに血を流すマキナは困惑しながら口を開く。


「俺だけの魔法だ。何故か俺にしか使えない、生まれたときから使えた魔法……『魔ノ王』だ。俺は死したときにも復活するんだよ」


「……一日限定か」


 随分とさっぱりとしてしまった魔王。

 その身を巨大な怪物から人ほどの大きさへと縮めた魔王の身の魔力の流れを的確に読むマキナは彼に身に何が起こったのかを正確に理解する。


「おぉ?わかるか、流石は天才と言ったところか」


「……無茶苦茶だ」


 関心する魔王に対してマキナはしかめっ面だ。

 それもそうだろう……魔王だけが使えるその魔法は一日一回とはいえ、その身に魔力が空っぽであっても完全に回復出来るのだ。

 魔力がゼロであろうと、どんな致命傷を負っていても。


「……」


「さぁ、戦いの続きを行こうか?」


 これまでの戦闘をなかったこととし、小さくはなかったがその身に宿る力を一切落としいない魔王は両腕を失ってとうとう魔法を使うことも出来なくなったマキナを前にして堂々と言葉を話すのだった。


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