小国の王女様

 マキナが一人の少女から助けを求められたのは今より一週間ほど前だ。


『どうか、お願いします……私の国を救ってください』

 

 王女という優れた生まれでありながらただ一人、魔法の才があった彼女は単身で過酷な山越えを果たして辺境の地よりボロボロになりながらもマキナの元にやってきた彼女はプライドも何もかもをかなぐり捨てて、土下座し涙を流しながら懇願の言葉を口にしたのだ。

 それを跳ねのける英雄がいるだろうか?いや、いるはずがない。


『僕であればいくらでも』

 

 当然、マキナはそれを快諾し……その少女を怪しいと判断したグレイスたちは反発した。

 それがあの龍と山脈を消し飛ばした戦いである。


「ここが」

 

 そんな戦いにおいて最終的に勝利し、自由を勝ち取ったマキナは一つの国へと入国する。


「ようこそ、お越しくださいました。我が国。リヒテン小国へと」

 

 リヒテン小国。

 東の辺境。栄えた大陸の中央の方から険しい山を越えた先にある辺境の地に存在する国であり、ほとんど他国との貿易もなしに自給自足で暮らす国だ。

 自給自足とは聞こえはいいが、それでもそれすなわち物資が他国より入らず、自国で賄える分しか人を増やせず、国力を上げられないということである。

 

 そんなリヒテン小国の第一王女にしてマキナへと縋りついた少女、シーフル・リヒテンは手を広げてマキナたちへと笑みを浮かべる。


「素晴らしい」

 

 マキナはその場に立ち、大きく息を吸って吐きながら一言呟く。


「実に美しい場所だ。澄んでいる」


「そう言ってくれると嬉しいです……自然だけが我が国の友ですから」

 

 マキナの言葉にシーフルは淡い笑みを浮かべて頷く。

 

 人の悪意にも晒されながらも、辛い道のちをただ一人で……限界を迎えながらもマキナの元へとたどり着いたあの時の彼女は限界だったこともあってただ縋ることしか出来なかった───しかし、

 

 シーフルはちらりと視線を送る。


「「「……」」」


 面白くなさそうな表情を浮かべているグレイスたち三人へと。


「それでぼ」


「それで?これから僕たちはどうすれば良いんだい?別に豪勢な接待をするよう強要したいわけではないということは理解してもらったうえで、我らは勇者パーティーなんだ。軽んじられるわけにもいかなくてね」

 

 そんなシーフルへと告げようとするマキナの言葉を遮ってグレイスが前に一歩出て疑問の声を上げる。


「この国に用意できる場を僕たちの宿泊先として用意してほしい。食物はなくてもいい。自分たちで取ってくるからね」


「当然にございます……とは言いたいところですが、本当に我々が提供出来るものはほとんどないんですけどね。それでも我らに出来る最大限のことはなさるつもりです。勇者パーティーの皆様は我が国の王城へと正体するつもりです。御四方の寝室は四人一緒で構いませんね?」


 ───しかしだ。今のシーフルは違う。余裕を得たシーフルの思考は既に冴えわたっている。

 

「え?普通に別々が良いんだけど」


「マキナ様……私たちは王城であってもかつかつでして、お部屋はおひとつしかないのです。どうか、わかってもらいませんか?」


 シーフルは非常に多くの者が見えている出来る女である。

 だからこその最善手を、勇者パーティーを味方とするための最善手が見えている。

 

 というより、マキナがアホなだけで勇者パーティーの面々が女であることを察するの簡単だ。

 そして、その三人がマキナに恋を抱いていることもまたしかり。

 ではどうすればいいか、どうすれば女の身で三人を味方と出来るかの答えは割をすぐに出るであろう。


「それなら仕方ないか」


 ついでに言うとマキナの御し方も把握したシーフルはあっさりとマキナを頷かせる。

 英雄願望で動くマキナは困っているから助けて、こうしてくれたら助かる、聞いてくれた喜ぶ。

 ただそれだけで決められたプログラムのように動く。

 

「ただ一つの大きなベッドしかございませんがそれでもお許しください……ですが、壁は分厚くなっておりますので周りからの音は入らないため快適にお過ごしいただけると思います。ただ、私は少々報告等もあるためしばらくは王城を離れますが、お許しください」


「「「……っごく」」」

 

 シーフルの言葉にグレイスたちは息を呑む。

 既にグレイスたち三人は和解している……出し抜き等は認め合っているが、マキナを巡って敵対しないことには決めている。

 一人ではマキナをとどめておけないことを本能的に理解しているから。


 そんな彼女たちに、シーフルの打った手は完璧と言えるだろう。

 三人とマキナが一緒になれる檻を手渡したのだから……己は一歩引きながら。


「どうか。我が国をよろしくお願いします」

 

 ただ一人。

 鳶が鷹を産んだようにさえ思える神童、智謀にも魔法の才にも恵まれる国を誰よりも愛する才女はその強かさでもって勇者パーティーを己の味方とする。

 

「うにゃー」


「……マキナぁ」


「……ぐふふ」


「……っ」


 複雑なように見えて誰よりもわかる易くて御しやすい英雄願望を抱えた男子一人と破滅的な愛を抱く女子三人のパーティーを。

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