魔王軍
「何故、僕たちが別行動なんだ!?僕たちはみんなで一人の勇者パーティーだ!別行動になるなんて許せない!どういうつもりなんだ?ねぇ、僕たちを引き離して、何をしたいんだい?マキナと僕は常に共とするだよ、わかる?ねぇ、それなのになぜ、どういうつもりで僕たちを引き離そうとするのかな?ねぇ、どういうつもりなの?」
「そうじゃ!何故わしらを引き離そうとするのじゃ!!!別行動なんて認めないのじゃ!……そうじゃ、認められるはずがないじゃろう。わしが見ていない間にマキナの実力しか見ていない売女共がハイエナのようにマキナを群がり、誑かすのじゃ……許せない、許せないのじゃ。そうじゃ、許せない、許せるはずがないのじゃ、マキナは強く偉大で優しく、それでも不安定で脆く、騙されやすいのじゃ、わしが……わしが……」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「ひぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい」
グレイス、レミヤ、レーテムの三人から詰め寄られる一人の文官は大きな悲鳴をあげて腰をぬかす。
こうなった理由は王都に到着して救出した第二王女を引き渡した後。
王宮からの伝令として各々別行動で世界各地に散って欲しいという要請があったからだ。
「で、で、で、ですがぁ……」
それを伝えに来た伝令は三人から詰め寄られ、腰が抜けて地面に倒れてもなおその心を折らずに立ち向かっていく。
「そ、それが王命であり、引いては世界からの要請でして……数多の襲撃を受ける現状、散ってもらわねば、こ、このまま、では人類を支える多くのものを喪失してしまいます」
その地域によって得意とする産業は違う。
得意とするものを、その地に適したものを互いに交換し、魔法で持って貿易してきた人類はどこか一つ、大きな国が滅びてしまえばそのまま人類社会の崩壊に繋がりかねないのだ。
世界のため、国のため、少しでも被害を少なくするために散るよう頼むのは正当な願いであると言えるだろう。
彼らがひとつに集まるなんて簡単かつ一緒なのだから。
「だが!」
「……」
グレイスたちと文官が押し問答を行う中、マキナはそっと己の気配を誤魔化していく。
そして、ここからそっと、気づかれないように場を後にしようと───
「「「……マキナ!?」」」
───マキナは全力でその場から逃走した。
■■■■■
大陸の中央部に位置し、魔王の本拠地がある湖の孤島にもほど近いルースト王国よりかなり離れた南洋の国、タリリア王国。
そこにまでやってきたマキナは現在の戦況を空の上より確認していた。
「とうとう別大陸までも支配したか?」
そんなマキナは小さな声で呟く。
本来は大陸の中心部にいるはずの魔王軍。
海にも繋がらぬ湖を揺らめく島より魔族は出れないはずなのだ。
故にそう、油断していたタリリア王国は、魔族からの攻撃などないと。初撃で前線は崩壊し、再びの戦線構築は失敗している。
現状としては一部の部隊が散発的に少しでも攻勢を止めようと努力している最中であった。
だが、そんなもので何とかなるはずもなく……国の崩壊すらも見えていると言え、マキナが空で悠長なことをしている暇ではないだろう。
「まぁ、それはひとまず後かな」
様々な疑問に答えを出すよりも今は目の前の問題を解決することが先だと判断したマキナは彼が来ると共に貼りめぐらせた結界に守られる者たちの前に立つ。
「……ッ!?」
「あ、あの人は……」
「だ、誰!?」
「……あぁ、助かった」
「こ、子供!?そ、そんな危険で……!」
マキナを前にする者たちは困惑するもの、救いを見出すもの、驚愕するもの、千差万別の反応を見せる。
「あ、あっ……あいつだ」
「……きた、魔導師が」
「やつだ……金魔の餓鬼だ」
それに対して魔族側の反応はひとつ。
絶望であった。
「僕が来た、これより先の心配はいらない」
そして、魔族側の絶望は事実となる。
小さく、それでも全ての者に届いた声。
それが響くとともに大規模に発動した魔法によってすべての魔族が貫かれ、滂沱の血を流して血を伏せる。
「僕が、世界最強の魔導師が、英雄が来た」
堂々たる態度で告げるマキナは人類側の兵士の歓声を、魔族側の兵士の悲鳴を浴びながらゆっくりと殲滅を始めるのであった。
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