戦乱の始まり
「いつの間にか凄まじく面倒なことになっているんだけど……」
無事に第二王女を救出したマキナたち。
何故か一切第二王女へと近づくことが許されなかったマキナは少し離れたところへと視線を送りながら小さな声で呟く。
「何かあったの?」
「ん?あぁ、うん。何かは起きているね、非常に面倒なことが……なんか魔王軍が動き出している。蹂躙されているわ」
「あぁ……うん、そうだね。確かにもう動くか」
マキナの言葉にグレイスが頷く。
そこに緊張感は一切ない。
「どう?戦況的には」
「んぅー。知らん。なんか動いている感じがしているだけだから、よくはわからん」
グレイスの言葉をマキナは興味なさそうに一蹴する。
マキナの瞳に戦場は映っていない。ただ、何となくで感じ取っているだけなのだ。
「そっか。まぁ、とりあえずは第二王女様の輸送が先決だね」
「そうじゃのぅ。わしらも無限増殖しているわけではないしのう。どうすることも出来ないのじゃ」
「そうだねー、ひとまずは静観だよねぇー」
「いやいや!?何を……何をそこまで冷静に!?」
グレイス、レミヤ、レーテム。
その三人が固まって一つとなり、中央に死んだような表情を浮かべているマキナを配置している状態となっている勇者パーティーの面々の前に座っていた男の騎士が大きな声を上げる。
「ま、魔王軍が攻め立てている……なんて!?そんな、そんなァ!!!何を平然と!?そ、その情報は本当なのですか!?」
一人の騎士として、人類のために戦う者として魂を賭して戦う彼、彼らにとって、魔族の軍勢が再び動き出したとなれば驚くの方は当然であると言えるだろう。
むしろ、一切動じる様子を見せる勇者パーティーの方が異質であるのだ。
「こう言ってはなんだけど、僕たちはちょっと一兵卒のみんなとはレベルが一つ、二つ違うからね」
「別にわしは人類のために戦っているわけではないのじゃ」
「……」
動揺を見せる騎士たちを横目とするグレイスたちは素っ気ない態度を見せる。
「僕は見えないし」
そして、マキナは騎士の瞳を真っ直ぐに見据えながらどこか異質な様相を見せながら口を開く。
「さてはて……そうだね。それでも君が望むか?同胞が一人でも多く助けられることを」
そして、続く言葉は騎士にとっては希望ともなり得る言葉でもあった。
「……ッ、な、何か出来ると?」
「正直に言って出来ることは少ない……よほど、よほど僕が警戒されているのか、世界に存在するほとんどの魔法どころか僕の持つオリジナリティある魔法であってもなおほとんど射程が届かないほどの遠方での戦闘が起こっているせいで僕が干渉出来ることは少ないね」
「……っ」
マキナの言葉に騎士が息を呑む。
「だが、それでも僅かなことは出来る。望む?」
「……ッ、どうか!どうか頼む!」
「ありがたい!ありがたい!!!どうか……少しでも頼む。俺は任される職種的に色々な国に交流を持っていて……多くの、戦友が世界にいるんだ」
「良いでしょう。僕は英雄。我が前にいる無辜の民の願いを跳ねのけることはないよ」
マキナはグレイスたちの元から離れて立ち上がる。
「「「……ッ」」」
「……ヒッ!?な、何……」
「ちょいと失礼」
勇者パーティーである四人とその御供として同席していた騎士が一人乗るだけの馬車の天井がマキナの魔法によって開けられ、自由となった天へとマキナがゆっくりと上がる。
「精霊、力を」
精霊たちの願いを言霊に乗せ、ゆっくりと上から下へと降りるマキナの腕の軌跡が一つの弓を形どり始める。
「みんな、進んでいっては良いよ、ちょっとだけ色々としているけど気にしないで」
突然馬車から空へと飛び出したマキナに困惑の視線が寄せられる中、マキナが気にしないように告げながら一つの矢を魔法で作り出し、弓へとつがえる。
「貫け」
きれいな所作によって放たれた弓から矢が一筋の光を描く。
天を引き裂き、光速にすら届き、空間を超えて突き進んだ一筋の矢がマキナから遠く離れた一人の魔族の胸を貫く。
「どんどん行くぞ」
マキナはなんとなくの勘で魔族の位置を把握しながら弓を放ち続けるのだった。
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