世界最強の魔導士

 道中にトイレ事件があったりもしたが、それ以外は特に問題もなく進み続け、目的地であった第二王女たるアルカ・ブルペーが攫われた砦へとたどり着いた。

 慌ただしく騎士たちが陣の設置や救出した第二王女を保護するための安置を作っている中、悠然とした足取りで一人の美人が一つの馬車へと近づいていく。


「マキナ。出番だよ」


 全体の護衛役として馬に乗り、隊を先導していたグレイスはマキナが中でレミヤと共に盤上遊戯をしていた馬車へとやってきて声を上げる。


「んにゃ、僕の出番かな?」

 

 マキナの魔法によって世界に顕現していた馬車は彼が魔力を無散させるだけでその姿を消し、代わりに中にいたマキナがグレイスの隣へと立つ。


「い、いきなり消すことはないじゃろう!?」


 そんなマキナの横では馬車が消えることを予期していなかったレミヤが無様に地面へと転がっていた。


「んなぁー、とうとう仕事か。ずっと馬車の中にいると体がぐへぇーってなるから嫌だね。酒が欲しいところ」

 

 マキナが馬車の中でやっていた盤上遊戯は賭博である。

 相手がレミヤであるために何かを賭けてはいなかったが、それでもやっていたゲーム内容はこの世界で最もメジャーな賭博ゲームだ。

 

 酒を飲みながらの賭博はいよいよであろう……まぁ、酔っぱらいながら行った賭博で小国の国家予算分くらいの金額を溶かしたこともあるマキナにとっては今更の話であるが。

 

「帰りもこれだから気をつけるんだよ。というか別に僕の横に居ても良いんだけど……どうする?」


「んー、帰りは飛んでいこうかなぁ、っと。それよりもまずは仕事だね」

 

 マキナはグレイスとの雑談を切り上げてきょろきょろと周りを探す。


「……レーテム?」

 

 自身のいるところ少し離れたところに立っていた何故か、道中において馬と並走する形でランニングしてついてきたレーテムを見つけた


「……っ」

 

 マキナの視線を受けたレーテムは無言のままマキナの方へと近づいてく。


「マキナ、結界はもう平気だよ。遠慮なくぶっ飛ばして」


 だが、レーテムがマキナの元にたどり着くよりも前に、敵が逃げることがないよう、ここら一帯を封鎖する結界をレーテムが張り巡らせたことを肌感でしかと確認したグレイスがレーテムの代わりにマキナの欲していた答えを先んじて告げてしまう。


「……ッ!?」


「ん、わかった」


「……ッ!?」

 

 マキナはグレイスの方に視線を送ることなく答え、そのまま何もすることなくしばらく砦の方を眺める。


「……誰もいないかな」

 

 そして、小さくぼそりと呟いた後に己の内にある膨大な魔力を開放する。


「「「……ッ!?」」」

 

 世界を呑み込まん勢いで膨れ上がるマキナの魔力に勇者パーティーのメンバーに同行していたルースト王国の兵士たちが反射的に彼へと化け物を見るかのような視線を向ける。


「……」


 だが、それを気にも留めていないどころか、むしろ心地よさそうにしているマキナは両手を重ね合わせ、この世界を維持する理そのものまでも捻じ曲げる勢いで魔力をそのうちに集めていく。


「っとと」


 高まる魔力を元に魔法を、魔法を超えし魔法を発動する。

 


 赫。


 

 チリチリと言う小さな音と共にマキナの両の手の内より静かに溢れる赫が世界を照らす。


「魔導解放・魔ノ界・焔」

 

 己の手のうちにある赫を球へとその姿を変えさせたマキナは───木、土、岩、この場にあるありとあらゆる自然を取り込み、その赫を徐々に拡大させながら

 そして、出来るのは第二の太陽である。


「……本気?」

 

 マキナの隣に立つグレイスが頬を引き攣らせるほどの大技。

 自然を呑み込んでどんどん巨大化し、燦々と輝く赫を天へと掲げるマキナは尚も止まることなくガンガン魔力を流し込んでいく。


「誰か耐えるかな?」

 

 国の重要地帯に建造された砦。

 重要拠点であり、それ相応に堅牢かつ巨大に建造された砦の全容を超えるほどまでに膨れ上がった赫を操るマキナはそれをそのまま砦へと直接ぶつける。


「……ッ」

 

 赫が砦へと振れた瞬間にレーテムがほぼ反射的に結界を発動。

 凄まじいエネルギーを持ってうねり、荒れ狂い、膨張する赫の解放を完全に抑え込む。


「およ?ありがと、自分で結界を張る暇が省けたよ」

 

 一切の疲労の色を浮かべぬマキナは軽い口調で自身にへばりつくレーテムへと感謝の言葉を口にする。

 そんなマキナが放った魔法を超えた魔法───魔導、その深淵が齎したものはけた外れであった。



「……嘘、だろ?」


 

 先ほど待ってあった砦はもはや姿かたちも残っていない。

 

「王女様、発見ー」

 

 後に残っていたのは予め張ってあったマキナの結界に守られる第二王女。

 そして、何とか生き残っている僅かな魔族たちだけであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る