第51話
「さて本題に入ろうか、リシア君。もし君が俺のモノになるというのなら俺は君の大切な人たちに手出しをやめよう。だがどうしてもそれが嫌だというのなら……――――君は大切な人を一人残らず失うことになるだろうね。」
「っ……。」
公爵は笑みを浮かべながらも冷ややかな瞳で俺を見つめてくる。
その瞳は本当にやるといったことを実行する。
そう思わせるには十分に寒気を覚える瞳だった。
「……考える時間をあげよう。そうだな……10日で良いだろう。ゆっくりと考えると良い。あぁでも、もしかしたら君の大切な家族は生きて、君を連れ去る方法を近くで考えているかもしれないが、逃げない事をお勧めするよ。理由は言わなくてもわかるだろう?」
公爵は余裕たっぷりに笑みを浮かべながら公爵を睨みつける俺を見ると用件は以上と言わんばかりに家から出て行った。
荒れ果てた家に残された俺。
そんな俺は力なく床に崩れ落ちる事しかできなかった。
(……なんで、なんで俺がこんな目に合わないといけないんだよ……。)
俺が一体何をしたというのだろう。
いや、さらに言えば父さんが何をしたというんだろう。
俺も父さんもやばい奴に目をつけられた。
でもそれは決して俺たちが悪いわけじゃない。
すべて悪いのは公爵だ。
一方的な愛し方。
それに俺たち家族、そして俺たち家族の大切な人を巻き込んでいる公爵。
それを理解すると今まで公爵を悪く思っていなかったことが嘘のように俺は怒りと憎しみ、そして自分の無力さを嘆く気持ちが込み上げてきた。
(……とりあえずこんな時だからこそ落ち着いて行動しよう。バルドはきっと大丈夫だ。それに公爵が言った通り多分、戻ってくるだろう。いや、バルドだけじゃなくてきっとフィオル様とカレイドも……。)
確かに俺には誰かを害す力はない。
だけど、代わりに別の力はある。
(フィオル様とカレイドは行方不明らしいけど、俺がいざという時の為に渡した傷口を強制的に癒す魔法薬を渡してるから多分大丈夫なはず……。でも、バルドに渡してる薬は二人に渡した薬よりは劣るから、俺が今すべきことはバルドを探しに行くことじゃなくて薬を作る事。それが終わっても帰ってこなかったら探しに行けばいい。)
公爵の言った通り、バルドは多分薬を使って傷を癒し、近くで状況を見ていたと思う。
何故そう思うかっていうのはバルドが”情報屋”だからだ。
情報屋であるバルドは間違いなく多少の危険を冒しても俺が返ってきた後の状況を把握しようとするだろう。
俺が連れていかれるのか、それとも残されるのか。
あくまでこれは良そうに過ぎない。
だけどそうであることを願い薬を作っていた時だった。
「いやぁ……驚いたよ。また刺されることになるなんてさ。」
苦笑いを浮かべながら明るい声のバルドが腹部を抑えながら帰ってきた。
様子を見るに命の危険が迫っているような様子には見えない。
見えないけど――――――――
(薬を渡していなかったら……どうなっていたんだろう。)
以前バルドが意識不明の重体で運ばれたときに刺された腹部。
そこを刺されたようだ。
(ただただ馬鹿みたいに俺だって時間を過ごしたわけじゃない。公爵邸を離れた後、治療薬をつくる実験を繰り返していてよかった……。)
幸い、俺はどうも薬を作ることに関してはかなり優れているらしい。
世間で傷を容易に治す魔法薬っていうのは流通していない。
出来ても軽い切り傷を直せる程度。
だけどそれを可能にしたのは俺の実験とカレイドによる経済支援のおかげだ。
薬草にも詳しいカレイドにいろいろな薬草が欲しいと言ったら快く提供してくれた。
そのおかげで今、皆の命がつながっているのかもしれないと思うと本当にカレイド様様だ。
(まさかと思うけど、あの男、こんな状況を予想していたとかじゃないよな?)
何を考えているのかわからない男だ。
頭なんて使わなさそうな見た目をしているのに思慮深い。
ある意味公爵以上に末恐ろしい。
(よく貴族では毒を盛られて命が狙われるとか聞くけど、あいつは絶対そんな事とは無縁なんだろうな……。)
毒を盛られかけたなら口にする前に気づきそうだし、何より何ならしれっと盛り返していそうだ。
なんて思ったとき、俺はふと一つの考えに居たった。
(……毒。そうだ!!毒だ!!!)
自分の無力さに嘆いていた。
俺には剣術はおろか、殴り合いだってロクにできない。
だから俺は決して公爵に立ち向かうことができないと思っていた。
思っていたけど――――――
「なぁ、バルド。驚かずに聞いてほしいんだ。俺さ――――――」
公爵に提案された内容。
あれはもはや提案と呼べるものじゃない。
選択肢なんてあってないようなものだ。
だからこそ俺はどのみち公爵の元へ行かなければいけないだろう。
だけどそれを逆に逆手に取る。
「公爵邸に戻るよ。もう誰も俺の為に傷つかないでいいよう、公爵を殺すために。」
薬草というのは使い方によっては薬にも毒にもなる。
そして俺であれば一般的に知られていない毒だってきっと作れる。
不思議とそんな確信が持てた俺は俺に心配させまいと気丈にふるまうバルドに笑顔で俺の今後について話すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます