第20話

改めてカレイドと友人となった。


それを記念してカレイドに薬草園で薬草に囲まれながらお茶なんてどうだと提案され、俺はそれを了承した。


そしてお茶会が始まるや否や、カレイドはいきなりすごい話題をぶっこんで来た。


「なぁリシア。お前って無類の女好きって聞いたんだけど、その割に何でフィオルに惚れたわ―――――」


カレイドが言葉を言い終わる少し前、「無類の女好き」というワードが出てきたことに動揺を隠せなかった俺は口に含んだ紅茶をすべてカレイドの顔に向かって吐き出してしまう。


そして吐き出したことによりカレイドは強制的に会話を終了。


ついでに朗らかな雰囲気のお茶会も終了したかもしれない……。


「ご、ごめん……。」


「い、いや、まぁ……いいよ。うん、多分俺が悪いんだろうし。」


お互い視線をそらしながら非を認め合う。


空気の温度差で風邪を引きそうだ。


「ま、幸いこの薬草園は温かいし、適当にそこら辺に干してりゃ軽く濡れただけの上着は乾くだろうさ。幸い今日は黒色だから目立つことはねぇしな!いやぁ、流石俺!紅茶ぶっかけられるの慣れてるからいつも着る色味気を使ってんだぜ?すごいだろ。」


「うん……確かにいろいろすごい……。」


頭が混乱しそうになるほど自信たっぷりに訳の分からないことを誇ってくるカレイド。


まず、紅茶をぶっかけ慣れてるところもわけわからないし、その上ぶっかけられることが多くて上着の色に配慮するってのもわけがわからない。


そしてやっぱり紅茶ぶっかけられるのに慣れているというのがどうしても理解できなかった。


「俺さ、社交界でこう呼ばれてんの。”令嬢の敵”ってな。」


「それは不躾すぎて嫌われてるってこと?」


「あはは!多分それもあるな!!」


割と痛いところをついてみたつもりなのに笑い飛ばすカレイド。


だけど”多分”と言うという事は明確な理由はまた別という事だろう。


「俺ね、無自覚に令嬢たちの婚約者を”奪っちゃう”んだよ。」


「…………は?」


カレイドはテーブルに肘をおいて、頬杖をつき、にっこりと笑みを浮かべて語ってくる。


その表情は少し挑発的な表情だ。


まるで――――――


(宣戦布告……みたい。)


まるでお前の好きな男も奪っちまうかもと言われている気分だ。


だけど――――――


「奪っちゃうって、カレイドが婚約者がいる男ばかり好きになってるってこと?」


どちらかといえばからかわれているように感じた俺は変に挑発に乗ることもなく気になることを問いかけた。


するとカレイドは残念そうな表情を浮かべた後、話を進めた。


「正確には違うな。俺はどいつもこいつも好きじゃなかったしさ。俺はまぁ……後処理をしただけっつぅか……。」


「後処理?」


カレイドはなんて説明しようかまるで悩んでいるような口ぶりで手元の紅茶を口に含む。


その姿はとても男らしくたくましい。


どちらかといえば男より女の子の心を奪ってそうだというのに”令嬢の敵”とは不思議なものだ。


「誠実に相手を思っている令嬢。そんな令嬢の相手がとんだクズ野郎だと破局させたくならね?」


「いや、うん、まぁ……気持ちはわかるけど……。」


カレイドはすっごくいい笑顔でとんでもない発言をした。


その発言を受け俺は苦虫をかみつぶしたような顔をしながら紅茶を口に含んだ。


気持はわかる。


解るけどそれはつまり破局をさせるために令嬢側を口説いたんじゃなくて男側を口説いたという事になる気がする。


(この男は男色なのか、令嬢たちの為に男色のふりをしてるのかどっちだろう。)


気を使っている相手は間違いなく令嬢だ。


恨まれてもいいから令嬢が傷つかない方法で破局させているような気がする。


(違う女性にとられたなら女性としてのプライドが傷つくだろうけど、そもそも土俵が違う相手に奪われたなら育分、まだましだろうし……。)


でも、もしそうだとしたらひどく気になる。


(そんなことをしてこの男が得るものは何だろう。自分が傷つく選択を何のためにするんだろう。)


ただただ許せない。


それだけでできる事ではない気がする。


考え無しそうに見えて思慮深い男。


俺はカレイドへの評価を少し変えるのだった。

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