第19話

「うをぉぉぉお!すっげぇぇぇ!!!」


薬草園につくと目を輝かせるカレイド。


実は俺も昨日来て同じ反応したことは絶対黙っておこう。


(なんかコイツと同じ反応したっての、なんか癪だし。)


「おっ!!コレ、幻惑草じゃん!!すっげぇ希少な奴!人工栽培できるんだな!」


少し離れたところからテンションがおかしなことになりながら薬草を見ていくカレイド。


そんな彼の姿に正直驚きを覚えた。


(本当に薬草に興味あったんだ。意外。)


草をいじるより剣を振ってそうな雰囲気のカレイド。


そんな人物が薬草に興味を持っている姿はなんだか胸が熱くなる。


「公爵様が魔塔に多額のお金を出して魔素を購入してるらしいんだ。それで魔力が蓄積された魔薬草がたくさん栽培できてる。育てる知識は実はないんだけど、そこは詳しい人がやってくれてて、実のところを言うと私は欲しいときに薬草をもらっていってるだけなんだ。」


目を輝かせながら薬草を見るカレイド。


カレイドはしゃがみこんで薬草を見ていた為、俺は軽く前かがみになりながらカレイドと同じ薬草を見てこの薬草園の事を語った。


そんな俺のスカートの裾を何故かカレイドは軽く引っ張った。


何だろうと思いカレイドの方を見るとカレイドはひどく嬉しそうに笑っていた。


「なぁなぁ、俺たちってもう友達?」


「…………え?」


笑みを浮かべながら問いかけられる言葉。


その言葉の意味が解らず首をかしげるとカレイドは言葉をつづけた。


「いや、だってさ、お前敬語じゃなくなったじゃん。薬草を通じてお前と心の距離が近くなったのかなぁ~って思ってさ。」


「っ!!」


温かい笑顔を向けながら嬉しそうに語るカレイド。


そんなカレイドの表情を見て俺は気恥ずかしさを覚えた。


別にカレイドの笑顔に見惚れたわけじゃない。


単純に心の距離が近くなったという発言に恥ずかしさを覚えたのだ。


「あ、貴方が少し友人に似てるんです。だから少し気が緩んだというか……。」


そう、うっかりタメ口で話してしまったのは彼がバルドにそっくりだからだ。


調子がいい感じなんてそっくりだ。


そして誰とも距離感が近そうなところも。


「なろうぜ、友達。俺はあんたとも仲良くなりたい。」


別に心の距離が近くなったわけじゃないとちゃんと伝えるのにそれでも距離を詰めようとしてくるカレイド。


……別に俺は本当に女の子なわけじゃないから初対面の時にがっつり着替えを除かれたことを言うほど怒っているわけでもない。


ついでに言えばカレイドの事も嫌いじゃない。


だけど――――――


「私はここにいるけど平民です。貴族の方と軽々しく話せる立場では――――――」


俺はあくまで公爵に飼われている存在だ。


決して貴族と対等なんかではないはずだ。


そう思いカレイドから視線を外しているとしゃがみこんでいたカレイドはゆっくりと立ち上がり、俺の頭に手を置いた。


「俺がいいって言ってんの。貴族の子息として言ってるんじゃない。一人の人間としてお前と友達になりたい。俺はカレイド。ただのカレイド。歳は18、趣味は剣術と食える草を探すこと。俺と友達になってくれねぇか?リシア。」


カレイドは明るい笑顔を浮かべ、俺に手を差し出しながら改めて自己紹介をしてくれた。


家紋を口にせず、ただのカレイドと。


「……食える草を探すことって、何それ。」


俺はカレイドの自己紹介の内容に笑わずにはいられなかった。


そして小さく笑いをこぼしたのちに差し出された手を握った。


「私はリシア。もともとは薬草で薬を作って売って生活していたただのリシア。これからよろしく。」


もう二度と友達なんてできないと思っていた。


俺は公爵家から出ることはできないから。


だけど新しくできた友達は俺の親友そっくりで、仲良くやっていけそうと思うのだった。

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