第14話

公爵が出兵して数日。


食事はフィオル様と二人きりでとっていた。


何か変わったことはあったかというと、今までフィオル様と俺は向かい合って食事をとっていたのにも関わらず、フィオル様は俺のカトラリーを取り上げ、まるで小鳥に餌をやる母鳥の様に毎回俺の食事をすべて手ずから食べさせてきていた。


それがひどく恥ずかしいくて動揺してしまっていたけれど俺はおとなしく運ばれてきた料理を食べるのに専念した。


少しでも口からこぼそうものならフィオル様が舐めとってくる。


本当にもう、いろいろ心臓に悪い人だ。


「いやぁ、本当に邪魔者がいなくて過ごしやすいね、リシア嬢。こうして食事中も君と触れ合える。僕は今とても幸せだよ。」


酷く楽し気に俺にご飯を食べさせてくるフィオル様の姿を見ていると到底やめて欲しいなんて言えるわけもなく。


俺はフィオル様の笑顔を見るために恥ずかしさをこらえ、赤子の様にただただ黙々と、綺麗に食べる日々が続いてたい。


そんなある日の朝、事件は起きた。


「う~ん、どの服にしようか。」


俺は起きて顔を洗うと公爵が用意してくれていた数多ある服の中から今日の服について悩んでいた。


先程までフィオル様も一緒にベッドで寝ていたが、朝早く使用人がやってきて何か耳打ちされると血相を変えて部屋を飛び出していった。


(いやぁ本当、助かった。今日はちゃんとネグリジェ来てたおかげで子供たちが一緒に寝てるだけってちゃんと思われたよな?)


数日に一回、フィオル様に全身愛撫される日はあるが昨日は普通に抱き枕代わりに抱きしめられて休まれただけだった。


まぁ、早朝フィオル様を探してメイドが入ってくるあたりもしかするとただならぬ関係なのはばれているのかもしれないけども。


とりあえず今のところ使用人の人たちはみんな必要以上に関わらないけれどそっけなくされたりはしていない。


俺が使用人の人たちに必要以上に世話をさせないでほしいとここへきてすぐに公爵にお願いしてからというもの、基本的に俺が呼ばない限り使用人が部屋に近づくこともなかった。


良い距離感ってやつだ。


だからもちろん朝の着替えだってよく聞く着替えを手伝ってもらうなんてこともない。


今日の服だって自分で決める。


が――――――


(正直、体のラインがよく出る服はなぁ~。)


俺に胸がないことを初対面の時にじっくり観察していたくせに地味に胸元がセクシーな服が多い。


首や腕は隠れているものが多いのになぜか胸元が無防備な服が多いのが服を選ぶのを難しくさせているといえる。


(胸元があいた服は胸がある女の子が着るからいいんだって……。)


なんて思いながら可愛い女の子来ている姿を想像する。


そう、女の子が着ている姿を想像したはずなのに何故か俺の脳裏に浮かび上がってきたのはフィオル様が着ている姿だった。


(バカバカバカ!!俺の馬鹿!!!フィオル様は男だっての!!つか、フィオル様に胸はないだろうが!!!)


余りにも馬鹿な考えを頭から追い出すため俺は左右に頭を振った。


そして――――――


(胸無くても細身だったらに合うのかも。)


フィオル様で想像した時点で胸がなくても似合う可能性というのに気づいてしまった。


(た、たまにはいつも地違う装いの方がフィオル様も飽きないかな?)


恋とは非常に厄介だ。


普段なら出ない無謀な賭けにも出たくなる。


俺は好奇心で少し大人っぽい体のラインがしっかりと出る服を選んだ。


だが、慣れないことはするものではないとすぐに思い知らされた。


(ほ、ホックが手が届かなくて閉めれない……)


身体が堅いのか背中のホックが自分では止めれない。


とはいえ、着替えで人を呼ぶのはなんか嫌だ。


それでも後はホックを止めるだけのところまで着たのであきらめたくない。


なんて思いながら頑張ってどうにかホックを止めようとしていた時だった。


「俺が止めてやるよ。」


(……え?)


聞きなれない声が聞こえ、驚き顔をあげる。


するとホックを止めるために夢中になって俯いていた俺の目の前の鏡には見知らぬオレンジ色の髪の快活そうな青年が映っていた。


「よし、止まった―――――」


「―――――う、うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」


突然見知らぬ男が部屋に入ってきたうえ、突然着替えを手伝ってきた。


その衝撃に俺はひどく大きな声をあげた。


「ちょ、まっ!!お、落ち着けって!!!」


余りに気が動転して青年から離れようとする俺。


そんな取り乱す俺を見て青年もひどく焦ったように俺を黙らせようとする。


俺の口元を抑えようとして糧を伸ばしてくる青年から逃れようと体をそらすと俺はそのまま体勢を崩し、床に倒れそうになる。


「あ、あぶない!!!!!!」


体勢を崩し床に倒れそうになる俺。


そんな俺に青年は手を伸ばした。


そして俺の越を見事抱きかかえ、俺の店頭を防いだその時だった。


「リシア嬢!!!!大丈夫!?一体何が――――――」


勢いよく部屋の扉がノックもなく開かれた。


そして俺は最愛のフィオル様に見知らぬ男に腰を抱かれる姿を目撃されてしまうのだった。

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