第15話
「…………可愛いリシアの叫び声が聞こえたと思ったら……一体リシアの部屋で何をしているんだい?カレイド。」
「い、いや、その、これは……だな……。」
にっこりと笑みを浮かべるフィオル様。
だけどその笑顔は笑顔なのにとてつもなく怖い。
そんなフィオル様のどこか怖い笑顔に押されてか、カレイドと呼ばれたオレンジ色の髪の青年は俺の姿勢を正させると俺の背中に隠れた。
その次の瞬間だった。
「僕のリシアから手を放せ!!!!」
フィオル様はひどく大きな声をあげた。
それは初めて聞いたフィオル様の叫び声だった。
そしてその声が聞こえた次の瞬間には俺はフィオル様に手を引かれ、抱き寄せられていた。
(う、うわぁ!うわぁ……!!)
抱き寄せられた俺はフィオル様に優しく抱きしめられる。
まるで童話に出てくる騎士様の様なたくましさに胸が高まってしまう。
一体フィオル様はどこまで俺を乙女にすれば気が済むんだか。
今日も今日とて魅力的だ。
「さ、触って悪かったって!ちょっと確かめに来たんだよ!お前が女を気に入ってるなんて聞いたら気になる俺の気持ちもお前ならわかるだろ?だから本当に女なのかって気になって、こっそりと、その……」
「へぇ……忍び込んだんだ。取り合えず、目をくりぬかれる準備はできてるかい?」
「ひ、ひえぇぇぇぇ!!!!!」
フィオル様の口調はいつもと変わらない。
だけど明らかに怒っているのが解って嬉しくなる。
それだけ俺を大事に思ってくれている証だと思わずにはいられなかった。
それからしばらく、許しを請うカレイドという青年と永遠に怒りのおさまらないフィオル様の言い合いは続いた。
そんな二人を見ていると俺は少し、バルドの事を思い出したのだった。
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「改めて俺はカレイド・グルバンテス。グルバンテス公爵家の次男だ。よろしくな。」
なんとか時間の経過で二人が落ち着いて話せるようになると俺はフィオル様に連れられてカレイドという青年と3人でお茶をすることになり、今突如部屋に入ってきたカレイドという青年から自己紹介を受けた。
(グルバンテスっていえば確か、正義の鷲って言われる程誠実な家紋で、バルドの第二の憧れの家紋だったっけ。)
正義の鷲と言われるグルバンテス公爵家は珍しいことに平民人気が高い家紋だ。
身分など気にすることなく、平民だろうが貴族だろうが同じように接してくれる。
そう平民たちの中で噂されていた。
休日は公爵も平民と同じ衣服を身に纏い、街へ繰り出しては平民に混ざってお酒を飲んだりする。
困ったときはまずグルバンテス公爵を探せと言われるくらい現公爵は人気が高い。
その家の次男がまさかまぁ……礼儀のなさそうな奴とは思わなかったけど。
「いやぁ、本当悪い。絶対にお前は女装男だと思ったんだよ。フィオルが女を好きになるなんて信じられなくてさ。」
(うっ……ただの無鉄砲馬鹿じゃないのかもコイツ。鋭い……。)
見事なまでに俺の境遇を当ててくるカレイド様。
とはいえ、一応それが勘違いという結果に至ったのか謝罪をくれる。
「えっと、気にしないで下さい。まぁ、その……見られたのは背中だけでしょうし。」
「え?」
背中を見られたくらいならまぁいいか。
なんて思って気にするなといった俺に帰ってきた反応はひどく驚いているような反応だった。
まるで、背中を見ただけじゃないといわんばかりに。
「カレイド、今の反応はどういう事かな?やっぱりその目、くりぬいておいた方がいいかな?」
「いいいいいや、違う!わざとじゃないんだ!!たまたま部屋にはいっていつ気づくかなぁって思ったらそいつ、突然脱ぎだして、しかも下着とか何もつけてなくて、た、たまたま!!たまたま全部見ちまっただけなんだ!!!」
「「なっ……!!!」」
目をくりぬかれまいと必死に弁解するカレイド様、いや、カレイド!
必死のあまりに会ったことを赤裸々に語る彼の言葉に俺もフィオル様も顔を真っ赤にした。
俺は恥ずかしさで、フィオル様は怒りでで種類は違うけど……。
(う、嘘だろ!?全裸見られたのかよ!!つぅか脱ぎだしたなら部屋から出て行けよ!!!)
信じられない。
そんな感情を抱きながら心で悪態をつく俺。
そしてフィオル様は――――――
「とりあえず遺言は聞いてあげるよ。さぁ、言い残すことは何かあるかな?」
笑顔を浮かべたままカレイドに剣を向けながら迫っていくのだった。
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