第41話

リシアがよろよろと宿から出ていく姿。


そんな姿を酷く嬉しそうにほほ笑みながら部屋の窓からのぞく存在がいた。


「随分と嬉しそうだな、フィオル。」


美しい顔で満足げにほほ笑む存在にカレイドは声をかけた。


すると声をかけられたフィオルはカレイドに視線を移すことなく、立ち去るリシアを見つめながら小さく笑った。


「そりゃ嬉しいよ。愛するリシアと甘い時間を過ごせたんだからね。」


笑みを浮かべながらリシアを見つめるフィオル。


その笑みを少し盗み見たカレイドは恐怖を覚えた。


その瞳はまるで獲物を見つめるような、そんなような目に感じたのだ。


甘い時間を楽しんだ後の人間の表情に思えない。


と、カレイドは感じた。


「うまくいっていると良いんだけどね。」


フィオルはうっとりとした表情でもうずいぶんと小さくなったリシアを見つめながらお腹をさする。


そんなフィオルを見てカレイドはため息を吐いた。


「ま、チャンスは何度でも作ってやるよ。俺の方はうまいことやれたと思うしよ。」


「流石カレイドだね。頼りにしているよ、カレイド。」


フィオルはカレイドの言葉を受けて愉快そうに笑うとようやくリシアの姿が見えなくなったからか部屋のベッドに深く腰を下ろした。


そして足を組みながら目を閉じ、幸せそうに笑う。


そんなフィオルにカレイドは苦笑いを浮かべた後ため息を吐くと近くにあったフィオルのズボンをフィオルに投げつけた。


「恥じらいを持てとは言わねぇが、惚れた相手以外の前での格好は気を付けるべきじゃねぇのか?流石に半裸で居続けるなよ。」


ズボンを投げつけられたフィオルは一瞬目を丸くしたけれど、その後面白そうに声をあげて笑う。


そしてひとしきり笑うと「それもそうだね。」と大人しく着替えを始めた。


カレイドは呆れた溜息を吐き捨てるとフィオルに背中を向けて近くの椅子に腰かけた。


「その様子だとやれるとこまでやったみたいだな。」


ため息交じりに椅子に腰かけたカレイドが背後で着替えるフィオルに問いかける。


するとフィオルは上機嫌でその問いに答えた。


「まぁね。だけど面白いことにもしかすると彼はそれに気づいていないかもしれないんだ。僕の服装を見てやけに安心しているような息を漏らしていたからね。本当、どこまで純粋なんだか。」


フィオルは笑みを浮かべながら先ほどまでの事を思い出す。


酷く幸せそうな笑みを浮かべて笑うフィオルからこぼれる声を聴いてカレイドは「幸せそうで何よりだよ。」と、苦笑いを浮かべながら吐き捨てた。


そして――――――


「悪いな、リシア。お前の事を思うならお前をこのまま見逃してやるのが一番かもしれねぇが、俺はお前以上にフィオルが可愛いんだよ。ま、つってもリシアも目に入れても痛くねぇほどかわいいんだけどなぁ。」


同じ静まり返った部屋で過ごすフィオルにすら聞こえないほど小さな声でカレイドは長い独り言を語る。


幸せそうに微笑みフィオルの傍でひどく不敵に楽しそうな笑みを浮かべるカレイド。


カレイドは楽しそうに笑みを浮かべながらこの先の事に考えを巡らせるのだった。

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