第42話
家に戻るなり倒れた俺。
そんな俺がベッドに横になると突然カレイドの話を始めたバルド。
「……実はさ……――――」
バルドはひどく言いづらそうに苦笑いを浮かべながら静かに、そして重たそうに口を開いた。
恐らくカレイドは俺とフィオル様が宿に入ったあたりにバルドの店に向かい、
バルドを訪ねたのだろう。
酷く陽気な笑みを浮かべて現れたカレイドにバルドは警戒心を抱かずにはいられなかったらしい。
「友好的な感じで話しかけてきたが、あれは情報屋の勘が言ってた。あいつは危ない奴だって……。」
危ない奴。
そう語るバルドの表情はひどく硬かった。
正直、俺を連れて行った公爵について話す時ですらこんなに硬い表情はしていなかったと思う。
一体、何がバルドにそこまで感じさせたのかはわからないけど、カレイドもカレイドで――――――
(悪い奴じゃないんだよな……。)
いろいろおかしいところはある奴だけど、いい奴か悪い奴化で言うと良い奴だ。
とはいえ俺がそれをバルドにあえて言う必要はないような気がして俺は口を閉ざした。
「あ、悪い。で、提案ってのなんだが……お前にその気があるなら、お前とフィオルってやつの交際を手伝うっていう提案だ。」
「…………へ?」
一体どんな提案なのか。
それを心して聞いた俺に帰ってきた言葉は予想もしない言葉だった。
俺たちの交際を手伝う。
まさかそんな訳の分からない提案を受けるという事を馬鹿みたいにまじめな表情で言われると思わなかったからだ。
だけど――――――
(お調子者のバルドが調子よくいっていないってことは……――――――)
「俺たちの交際を手伝うってことが何か大きなことにつながる……んだよな?」
確信はなかった。
だけど違う気もしなかった。
なんとなくそう思って口にした言葉にバルドは静かに頷いた。
「カレイドってやつは色々教えてくれたよ。俺が公爵に襲われた理由とか色々。どうやら公爵は邪魔者は消せばいいって考えが故にいろいろと詰めが甘いらしい。目的さえ達成できれば他はどうでもいいって感じでな。」
バルドはひどく浮かない表情で今日、カレイドと話した内容についてより詳しく話し始めてくれるのだった。
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「あれはお前の事が気になって、そろそろお前を迎えに行こうと思って退勤しようと思ったときの事だったんだ――――――」
そう、俺バルドこと情報屋のバルの今日の仕事は終わりだと思い情報屋に帰還した時の事だった。
「おーい、バル!お前にお客さんだぞ!」
店に戻るなり俺は仲間に呼ばれた。
リピーターだろうか。
そう思いながら客間に向かうと例の男、カレイドがいたんだ。
「よぉ!色男君。会いたかったぜ。」
扉を開けた瞬間胡散臭い程に明るい笑みを向けられ、会いたかったといわれた俺はひどく背筋が凍る想いをして急ぎ扉を閉めた。
何で?
どうして?
情報屋が情報を掴まれてるなんて一体どういうことだ?
と、混乱していると客間の扉が中から開かれた。
「おいおい、いくら何でも閉めるこたぁないだろう。とりあえずお話ししようぜ、バルド君。」
あろうことかカレイドという男は誰にも聞こえないよう耳元で俺の本名を読んだ。
仲間たちは信頼できるがそれでも情報屋。
得た情報は金に換えるのが仕事の人間たちがいる中で本名を出されることは気が気じゃなかった俺は場所を移して話すことを提案し、近くの酒場の奥の席へとカレイドと移動した。
「さぁて、バルド----いや、バル君。情報交換といこうか。お前は何をどこまで知っている?」
席に着くなり奴は酷く陽気な笑みを浮かべながら不敵に、そして俺を値踏みするように笑いかけてきた。
まるで俺の情報屋としての力を試すように。
「……何の情報を知っているか聞いているかはわからないが、悪いけど俺は危ないものには触れない主義なんでね。リシアを連れ去った公爵については何も調べてないんだよ。」
俺は素直に何も知らないことを明かした。
少し屈辱的だったけど、だからと言って嘘なんてつく気もないし付けるはずもない。
出来るだけすました顔でそういって、俺は注文した酒が届いたのをいいことにクールぶって酒を口に含んだ。
「……もし知らずにここまで事をうまく運んでるなら、お前は強運の持ち主だな。」
バカにする言葉でも返されるんじゃないだろうか。
そう思っていたのに意外と感心されて俺は驚いた。
だけどそう語るカレイドの表情は少し残念そうにも見えた。
彼的にはまるで情報を掴んでいてほしかったといわんばかりに。
「なぁ、バル君よぉ。あんたはリシアが大事か?あいつの為になら危険な事にでも首を突っ込めるか?ちなみに言うと俺はフィオルが大事だ。あぁ、フィオルってのは俺といた頭がイカれてる奴な?可愛いだろ。……本気で自分の妹みたいだって思ってんだ。俺はあいつの為なら、あいつが欲しいと思うものの為ならいくらでも自分も誰かも犠牲にできるぜ。」
カレイドという男は今まで浮かべていた胡散臭い陽気な笑みを崩し、真剣な表情で俺を見つめてきた。
その表情からは痛いほど伝わってきたことがあった。
それはあのカレイドという男がお前の元カノ、フィオルという人間をどれだけ大事に思っているかという事だった。
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