第38話

「まぁ~♡リオ君ったら今日は随分と涼し気な格好なのねぇ~ん」


とんでもない再会から一夜が明け、俺はバイト先に出勤した。


割と脇の部分が広く空いたタンクトップを着て出勤してきた俺に反応したのは店長だった。


「今日はやけに暑かったんで。」


とりあえず不審がられないよう俺はいつもあまり気ないような露出の高いタンクトップを着ている理由を話した。


すると店長は顔を赤らめてグーサインを両手で作り、上機嫌で「ナイスよ」と言ってきた。


(にしても暑いのは事実なんだよなぁ……。)


今日はいつにもまして蒸し暑い。


お客さんがいない間は店長が奥でバッフェルを焼きだめているのを眺めたりしながら座ってじっとしているしかない。


あまりの暑さに襟元を引っ張ったり戻したりしながら座っていると常連のお姉さんがやってきた。


「リオ君、今日は随分思い切った格好してるのね。」


いつも座ってバッフェルを売ってるからいつも上から見下ろされるわけだけど、今日はその視線がいつもとは違って首から下にある気がする。


「……もしかしてその角度からだと中見えてる?」


「えぇ、見えてる。」


あまりの暑さにさほど気にしていなかったけどまぁ、よくよく考えたら見えてても仕方ない。


随分と緩いタンクトップを着ているのだから。


「お姉さん、今日暑すぎない?早く売り切って帰りたいなぁ~。」


「もう、仕方ないわね。いいもの見させてもらったしこれとこれとこれ、貰っていくわ。」


冗談めかしくねだってみるとお姉さんも仕方ないと笑いながらバッフェルを購入してくれる。


「毎度あり!また来てね~。」


俺は満面の笑みでお姉さんを見送った。


そんな俺の視界に次の来客と思われる人影が見えた。


「いらっしゃ――――――」


営業スマイルで次のお客さんを見上げるとそこには昨日会ったばかりのフィオル様とカレイドがいた。


俺はとりあえず営業スマイルを崩した。


そして――――――


「またあんたたたち?客だっていうなら歓迎するけど、客じゃないなら帰ってくんない?」


リシアならいわないような言い回しで俺は二人を拒絶する。


可愛げのない口調にはもうだいぶ慣れたものだ。


女として過ごしていた時は多少腹の中でだけ許していた憎たらしさも今では口に出すようになっていた。


「全部売れたら君は帰れるのかい?」


酷く熱いというのに日焼けを避けるためかローブを着たまま汗一つかかずに涼しい顔で問いかけてくるフィオル様。


そんなフィオル様の言葉を受け、俺はちらっと店長の方を見た。


店長はバッフェルをもう焼いていない。


つまり売り切れたら確かに帰れる。


「帰れるけど、この量買うつもり?買って食わないんだったら冷やかしと同じだ。全部食べる気がないなら食べれる分だけ買って帰ってくんない?」


バッフェルはまだまだ余っている。


流石に残っている量すべてを食べるなんてできるはずがない。


なんて思っていると――――――


「すべて買わせてもらうよ。買ったものは他の人にも分けるのは自由だろ?」


「…………。」


言い返せない言葉を返されてしまった。


「あと、君の仕事の時間が短くなった分、君と話をさせて欲しいんだ。もちろん、涼める場所でね。」


にっこりと穏やかに笑うフィオル様。


昨日の様な冷たい表情ではない。


(……別人だって早いところ思ってもらった方がいいよな?)


正直、少し自信がないけど俺はリシアだったころと随分違う。


なんとなく面影を感じられていたとしても似ているで通そう。


「短くなった時間は3時間。その3時間で済ませると約束してくれるなら付き合う。」


「あぁ、約束するよ。」


フィオル様は俺が不貞腐れながら言うと嬉しそうに微笑んだ。


いっそ昨日のように冷たい視線を送ってくれればいいものの、心が揺れるような表情を向けられ俺はこの後フィオル様と過ごす3時間を億劫に感じずにはいられないのだった。

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