第39話

(うっわぁ……マジかぁ……。)


涼める場所。


そう言ってこられたのは街の宿だった。


宿自体はそこまでいい宿ではないから考えすぎかもしれないけど……――


(部屋に連れ込もうとされてたりしないよな?)


街の住人だからこそ宿なんて使わない。


だから構造が知らない分嫌な想像をしてしまう。


「個々の宿は食事処もやっていてね。落ち着いて話せる個室もあるんだ。さぁ、ついてきて。」


穏やかにほほ笑むフィオル様。


正直この人の話は嘘か本当か判断できない。


(い、一応俺今体男だし、確信持って何か行動して着たりなんてしないよな?)


生別が違う。


それは随分と大きな問題なはずだ。


だからおそらく大丈夫だろうと俺はフィオル様についていった。


するとフィオル様は俺を連れて個室に入った。


不信感を覚えはするものの、店員と何か話していたし大丈夫だと信じたい。


宿泊者なら逆に話しかける必要がないわけだし……。


なんて思った俺が馬鹿だった。


「ねぇ、君は本当に僕を拒絶するつもりがあるのかな?」


俺は個室に入るや否や、ベッドに押し倒された。


宿が小さい分扉からベッドまでの距離は近い。


そのせいで気づいた時にはフィオル様は俺の上に覆いかぶさっていた。


「……拒絶するつもりはあるさ。あんたがまさかこんな行動に出るとは思わなかっただけだ……。」


本当は予想はしていた。


だから正直なところ、すこしだけ図星を刺された気分だ。


俺に覆いかぶさりながら美しく微笑み俺を見下ろすフィオル様。


その顔を見ると俺の心はまだフィオル様へ思いを募らせていることが解った。


(拒絶する気満々だったのに、今俺は……――――)


以前にもまして艶っぽい笑み。


その笑みを向けられ押し倒されているこの状況が心の底から嫌だとは思えないでいた。


(……駄目だ、落ち着け。落ち着くんだ。俺とフィオル様は過去に出会ったことのない存在。フィオル様はどこからどう見ても男。だとしたら俺がいう発言は――――)


「悪いけど俺、男に興味ないんだよ。あんたがどれだけ美人だろうが、俺は――――――――」


少しだけ賭けだった。


フィオル様があっさり性別を明かすのか、それとも隠すのか。


一体どんな反応をするのだろう。


そう思ってフィオル様から視線を外して返答を待っているとフィオル様は小さく笑った後、汗だくで肌に引っ付きさえしている俺のタンクトップに腹部から手を忍ばせてきた。


「ちょっ!!な、何を―――――」


「――――リシア。君は僕が男を知らない人間だと知っているだろう?男の生理現象は理解している。口では嫌だという君はすでに僕に欲情していることに気づいていないと思うかい?」


フィオル様はそういうと俺のタンクトップをめくりあげ、腹部、へそのすぐ隣に口づけをしてきた。


「ちょ、だっ……――――――んんっ……!」


駄目。


そう言おうとした瞬間腹部の汗が舐めとられた。


その瞬間俺の身体は反射的に震えて跳ねてしまう。


「匂いも、反応も、すべて君らしいのにどうして隠すんだい?あぁ、もしかして今は身体が男の子だからかい?むしろとても喜ばしく思っているよ。つまりこのまま君を快楽に溺れさせてしまえばもしかしてもしかすると――――君は僕から決して逃げられなくなるという事だろ?」


フィオル様は楽しそうに俺の身体に口づけたり、舐めたりしながら自分の野望を語る。


どうして……どうしてなのだろう。


(なんで……なんでそこまで確信をもって俺がリシアだって思えるんだよ……本当に……本当に――――――)


「愛しているよ、リシア。いや、今の名前はリオだったかな?」


腹部にうずめられていた顔はいつの間にか下から上へと上がってきていて、俺と目と鼻の口の先で、息が当たる場所で愛を囁かれる。


愛を囁くフィオル様はひどく幸せそうに頬を硬直させながら俺をまっすぐ見つめている。


まるで――――――


「愛しているよ、リオ。君がどんな姿だろうと俺が君をわからないわけがないんだよ。だって僕たちは運命でつながっているんだから―――――。」


(本当に……運命の相手だからわかるんだろうか……。)


酷く熱っぽい息。


それが顔に当たりくすぐったさを感じながら俺は特に抵抗することもできず、まるでフィオル様を受け入れるように口づけを交わしてしまうのだった。

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